プロ野球を社会科する/第1回
〜NOMOという名のベンチャー企業〜
去年、球界最大の話題といえば野茂の活躍。いえ、球界に限らず日本全体ひっくるめてもいちばん明るい話題だったといえます。不況や地震やオウムでくらあくなってたこの国を、サンサンと照らしてくれました。そればかりか彼は、若いもんの生き方に、大いなるヒントをくれたとぼくは思っています。
野茂の大リーグデビューは、サラリーマンでいえば外資への転職ということですか。でもこの解釈はちょっとツマラナイ。むしろ彼は「NOMO」という名前の新しいベンチャー企業を起こしたと考えると、なんかこうコーフンしてきませんか。
日本野球という業界ほど閉鎖的な市場もないわけで、アメリカはなぜココを301条攻撃しないのかと思うほどです。日本人にさえも開かれていない市場。従業員はヘタな辞め方すると、再雇用の道はない。ましてや自らが企業家となるなんて、もうとんでもないことです。サラリーマンならココであきらめちゃいますよね。ああ、おれはこのマヌケ社長やトンマ上司の下で、ガマンするしかないんだと。
でも野茂は、そんなガマンしなかった。新企業NOMOを設立して、豪速球とフォークボールという「独自の技術」に投資してくれるベンチャーキャピタルを、世界市場に探しに行ったわけです。そしたらドジャーズ資本が野茂に投資してくれた。NOMOはめでたく企業としての船出を果たし、あれよあれよという間にアメリカ市場でウナギ登りの評価を受けました。上場して株価がいっきに上がったかのように、契約金は大幅アップ。さらにトヨタやジャイブなどからの新たな投資も加わったし。ドジャーズにしても、観客が増えて投資は何倍にもなってかえってきて。みんないうことなし。
この野茂の成功談は、ぼくたちとは遠いところにいるスーパーマンの話じゃないと思うんです。これはぼくたちの話なんです。ぼくたちにだって、ぼくたちなりの豪速球はあるぞ。いやフォークだって、投げられるんだぞ。
さっき「サラリーマンならあきらめちゃう」と書きましたが、べつにあきらめるこたあない。野球界という超閉鎖産業で可能なことが、あなたの業界でできないこともないでしょう。もしあなたがマヌケ社長やトンマ上司の下で悶々としているのなら、野茂になってみれば?野茂の豪速球にあたる何かを片手に、広い世間に飛び出てみればいい。日本のベンチャーキャピタルだって、だんだん盛り上がりつつあるらしいし。
なんか「会社なんか辞めちゃえ」とムヤミに言ってるみたいになってきましたが、そういうことでもなくって。言いたいのは、「野茂は夢を現実にする素晴らしさを教えてくれたね」ってことです。そしてその夢は、ぼくたちだって描けるんです。ぼくたちだって、現実にできるんです。そう、ぼくたちだって、野茂になれるんです。
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