アップデートへのプロローグ

僕はまだ、僕を知らない。



「どうだい?」
コピーライターとしての作品集と、スポーツ紙に連載したコラムからなるホームページを完成させると、ぼくは得意気にガイアに言った。
「ふうん。まあ、とりあえずはそんなもんだろうねえ」腕組みをしながらガイアは言う。
「そんなもん?失礼だなあ。いいかい。ぼくはコピーライターとして、その、有名とまではいかないけれど、そこそこの存在なんだぜ。しかもマスメディアで連載をやったってのも、いくらコピーライターだって、そうそうあることじゃないんだ。そんなもん、なんて言い方はないだろ。」言いながら、ぼくはどんどん頭に血を上らせていた。


「だからわかってないってのさ」興奮気味のぼくをしょうがないなあという目で見ながらガイアは言う。
「職業なんか、ここではほとんど意味を持たないって言ったはずだぜ。なのにあんたがホームページで見せたのは、あんたの職業上の成果じゃないの。まあ、いきなりそれ以外のこともあんたには難しそうだから、コピーライターってとこからはじめてみればって言ったわけでね。どうだい?なあんて得意気に言うほどのもんじゃないの。わかる?」
ああ!なんて頭に来る奴だ。とはいえ、なんとなく彼の言っていることもわからないでもない。たしかに、コピーライターだからってその作品集をホームページにのっけても、あまり有意義だとはいえないかもしれない。元々すでに世の中に発表されているものなのだから。
でもなあ。じゃあ、何をすればいいのだろう。


「うふふふふ。悩んでるね。困ってるね。そうそう、そこからほんとうのあんたの旅がはじまるのさ。おおいに悩んでくれたまえ。このインターネットで、じぶんは何ができるのだろう。じぶんは何者なのだろう。そもそもじぶんは、誰なんだろうってね。うふふふふふふふふ」
不愉快な笑い声を残して、ガイアはいなくなってしまった。ぼくはマッキントッシュの前にぽつんと一人取り残されている。ぼくに何ができるか。ぼくは何者なのか。ぼくは誰なのか。ガイアの言う、「ほんとうの旅」がはじまろうとしていた。


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