募集を呼びかけたのはいいけれど、ひとつも来なかったらどうしようと思ってたら。さっそく来たよ。なんとなく匿名にしておくと、Sさんから。以下は彼からのメールをそのまま引用。
映画企画募集に応募させて下さい。冗談半分ってことで。(^-^)
ワタシ、つまり、「サムライ・フィクション 2」を作って欲しいです。シンプルなストーリーをカッチョイイ演出、ナイスなキャスティングで見せて欲しいです。あと、ステキな音楽で。可能ならばミュージカルってのもイイかも。そういう時代劇。
舞台はある小さな剣術の道場。師範代のトータス松本は、師範の娘の奥菜恵に恋している。ある日、謎の美しい剣士(パフィ・大貫亜美)が道場破りに来る。トータスも師範もあっさり負かされて、剣士は去っていく。トータスはその剣士を追って旅に出る。剣士が実は女だとわかって、トータスは剣士に恋をする。で、いろんなエピソードが絡んで、最終的にトータスが大貫を斬って、苦いエンディング。トータスはさらに旅に出る。奥菜、じっと帰りを待つ。みたいな話。奥菜も「剣士」になってトータスについて行っちゃうってオチでもいいかも。
うーんナイス、Sさん。ナイスというのは、題材として既存の映画の続編というのがまずナイス。イメージしやすいでしょ。時代劇にポップミュージックのエッセンスと今風のキャスティングをちりばめ、でもストーリーは意外にオーソドックス(いい意味で)だった「Samurai Fiction」。いかにも続編がありそうなエンディングだったけど、まさしくその夢を空想してみようという魂胆だね。観てない人はビデオ出てるから観ておくと、話が早いと思うなあ。
もう一つナイスなのは、書いてきたことがちょうどいい案配に不完全でいいなあと。当然ながらプロットとしてはまだまだ詰めないといけないんだけど、「セットアップ」はできている。この後、話に花を咲かせやすそうじゃないですか。
「セットアップ」とは何ですか?はい、ここでひとつご紹介したい本があります。『ハリウッド・リライティング・バイブル』(リンダ・シガー著/愛育社 ¥2500)。ちょっと大きな書店なら置いてあるはずだから、読んでみてほしい。
この本は、ハリウッドでの映画脚本のつくり方のルールが書いてある。べつにすべてのハリウッド映画がこの作法で書かれているわけでもないけど、少なくとも「商品としての映画」に必要なルールだと言えそう。
で、そのリンダおばさん(たぶん)が言うには、映画にはまず最初の15分程度で「セットアップ」が必要であり、そこでは「セントラルクエスチョン」が提示されなくてはならない、のだそうです。つまり最初の15分でメインの登場人物を示して、映画の目標を明解にしないといけない、と。
「シックスセンス」で言えば、「精神科医は少年を治療できるか」となる。有名な映画で見ると、「JAWS」なら「署長は鮫を退治できるか」、「インディペンデンスデイ」だと「人類はエイリアンを撃退できるか」、多くのアクション映画では「主人公は悪漢をやっつけられるか」などなどなど。そして娯楽映画の場合、その目的は最終的に達成できるし、観客もそのつもりで観ている。そのつもりで観ているくせに、「うわ、やられる!」とかヒヤヒヤするのが映画なわけでしょう。
で、Sさんの「Samurai Fiction2」ではセットアップができている。トータスの前に謎の剣士が登場するまでがセットアップ。「果たしてトータスはこの剣士に勝てるのか」というセントラルクエスチョンが提示されるわけね。うーん、出だしは好調だな、この映画。きっと勝つんだろうけど、いやいやどうなるんだろうなあ、と観客はストーリーに興味を持つことになる。
リンダおばさんに言われてみると、このセットアップに失敗してセントラルクエスチョンを提示できないまま進んでしまう映画ってけっこうあるぞ。いったいこの映画はどこへ向かって行こうとしているのかわかんないなあ、と思ってしまうと観客は物語に引き込まれない。
リンダおばさんの講義にはまだまだ続きがあるんだけど、それは次回へ。
(2000年10月30日)