Sさんの「Samurai Fiction2」をどう続けるか、という問い掛けをしたら、なんとちゃーんとその宿題をやってくれた人がいた。正直言って、そんな奇特な人が出てくるなんて思わなかったよ。
書いてきたのは、えーDさんとしとこう。彼は実は前にメールで「読者から企画を募るというのはどうでしょう」と提案してきた人なんだ。つまり、今回の企画募集の仕掛け人。仕掛け人みずから送ってくるなんて、責任感あるなあ。
そいでDさんの案を見る前に、もういちどSさんの原案を見てみよう。
舞台はある小さな剣術の道場。師範代のトータス松本は、師範の娘の奥菜恵に恋している。ある日、謎の美しい剣士(パフィ・大貫亜美)が道場破りに来る。トータスも師範もあっさり負かされて、剣士は去っていく。トータスはその剣士を追って旅に出る。剣士が実は女だとわかって、トータスは剣士に恋をする。で、いろんなエピソードが絡んで、最終的にトータスが大貫を斬って、苦いエンディング。トータスはさらに旅に出る。奥菜、じっと帰りを待つ。みたいな話。奥菜も「剣士」になってトータスについて行っちゃうってオチでもいいかも。
ポイントは、「いろんなエピソードがからんで」ってとこで、それがリンダおばさんのご説の「アクト2」だったわけなんだけど、そこを誰か作ってみない?と呼びかけたわけよね。
で、Dさんはなんと3案も考えてくれた。
アイデア その1
(1番よくあるパターン)トータス松本は、その女剣士を探しつづけているうちに、実は彼の師匠(忌野清志郎)を殺したのが、その女剣士だということがわかってしまう。それで最後にトータスが女剣士と対決し、彼女を斬る。
アイデア その2(最近のハリウッド映画的発想パターン)
トータス松本は、その女剣士を追いかけるのだが、いつもあと一歩のところで会うことができない。(ちょっと飛躍して)最後にわかったことは、実はその女剣士とは、トータスがつくりだした幻で、彼が剣士として成長していくためには、その幻と対決しなければならない。最後にトータスは女剣士と対決し、自らの幻である彼女を斬る。
アイデア その3
トータス松本は諸国を旅しているとき、空腹で動けなくなっている少年(堂本剛)を助ける。少年は子供のころ離れ離れになった母親をさがして旅をしているという。少年に剣を教えながら旅を続けるトータス。トータスを兄のように慕う少年。旅の途中でのこと。少年はある町で武術の賭け試合がある事を知る。少年は旅費のためと自分がどのくらい強くなったのかを確かめるため、トータスに内緒でその賭け試合に出てしまう。少年は順調に勝ち進んでいく。しかしなんと決勝の相手は、トータスがさがしていた女剣士であった。トータスの目の前で、額を割られ生き絶える少年。試合会場で決闘となり、トータスは彼女を斬る。
ふむふむなるほど。それぞれが、それぞれだねえ。
で、おのおのの検討に入る前に、今日は「サブプロット」の話をしておこう。
リンダおばさんの説では「映画にはメインプロットの他に、複数のサブプロットがあるものだ」と。で、これもまあ、新しい話でもない。ぼくも昔、学生時代に映画好きの友人達と「あの映画のサブストーリーはだなあ」と語り合っていたしね。言葉としてはじめて聞く人も、ちょっと映画好きなら本能的には理解しているはず。でもって、映画を豊かに感動的にするのは意外にこのサブプロットだったりするよね。
いちばんよくあるのは、主人公の冒険がメインプロットなら、恋愛がサブプロットというパターン。あるいは主人公がメインの目的を達成するのが、何かのコンプレックスを克服することにもなっているとか。主人公が悪漢をやっつけた瞬間、ゴールを決めた瞬間、目的地にたどり着いた瞬間のシーンでぼくたちがウルウルきちゃうのは、それがサブプロットも解決してのけた瞬間でもあるから。映画のほんとうのテーマがあったりするのがサブプロット。逆に言うと、サブプロットがおろそかだとあまり感動しないもんです。つまんない映画って、だいたいはサブプロットがなかったりうすかったりして、物語が重層的じゃない。直線的。
リンダおばさんがわかりやすい例として挙げていたのが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。アクト2、つまり過去に戻っちゃったらそれがまるごとサブプロットになっている。具体的には、「自分が過去に現れたせいでパパとママが出会わなかった。このままじゃ二人は結婚しないから、なんとかキスさせなくちゃ」。これがメインプロットである「なんとか未来に戻らなくちゃ」と並行して映画を進めていくわけでしょ。
サブプロットに関してリンダおばさんはこう言っている。「それはいつはじまってもいいが、ちゃんと3アクトで構成されるべき」。つまり、セットアップにはじまり、3つのアクトで考えましょうと。
実は、最初のSさんのプロットの中には少しだけサブプロットも含まれていたんだよね。それはトータスが奥菜に恋している、って箇所。でもこれも、セットアップだけになっていたので、どうしようかなと思ってたんだよね。
でねえ、Dさんの書いてきたのもこれはアクト2というよりサブプロットだと見た方がいいみたい。物語にふくらみを与えているでしょ。アイデアその1では「女剣士を討つことは昔の師匠の敵討ちでもあった」。その2では「女剣士を討つことは自分を克服することだった」。その3では「女剣士を討つことは弟分の敵討ちでもあった」。
サブプロットとしては「その2」が面白そうだなあと思うんだけど、まあDさんが自分でも書いているように、実は自分が作り出した幻影でしたってのは最近ありがちかも。装いは今風だけど物語はクラシック、という「Samurai Fiction」の味わいからいくと、「その3」がいいかな。「少年」が死んじゃっていいのか、という問題はあるけど。でもこの物語を兄弟愛の話にする、彫り込みになるね。トータスには昔死んじゃった弟もいて、なんてエピソードを添えてもいいかも。
さて、というわけで、まだアクト2は不完全だ。女剣士を討つ旅に出るアクト1はいい。弟分と疑似兄弟愛を深めるサブプロットもいい。でもカンジンの「トータスはどのようにして一度破れた女剣士を破ることができたのか」がない。その成長の過程こそがアクト2になるはずでしょ。そして、最後の勝負がアクト3になるとすれば、「これで勝てる」と決意するのが第2ターニングポイントになるはず。
そこいらあたりを、組み立てましょ。
(2000年11月10日)