今週もギリギリセーフ(?)で週刊化を守って書きます。
前回、東映アニメフェアを見るついでにシネコン効果で「トイストーリー2」を見たことを書きましたわな。ところでこの映画、有楽町の映画館ではデジタル上映を実験もかねてしてるんだって。さてデジタル上映とは何じゃらほい?
映画はロール状のフィルムを映写機で上映するもんだってのはもちろん知ってるでしょ。このフィルムを使わないのがデジタル上映。フィルムのかわりにハードディスクに記録されたデジタルデータを上映するわけ。「トイストーリー2」はなにしろフルCG、つまり元々がデジタルデータだからデジタル上映に向いているわけね。フィルムと違って劣化しないから、考えようによってはフィルムより画質がいいのかも。
そいでもってこれは、映画の画質だけじゃなく、映画ビジネスの「配給」という部分に小さな、でも考えようによっては大きな影響を及ぼしまっせ。
映画をつくって公開が終わるると、製作会社は配給会社から「アドプリ費」を請求されます。「アド」はアドバタイジングつまり宣伝費。じゃあ「プリ」は何でしょう。正解はプリント費。そう、フィルムをプリントする費用。
フィルムをプリント。これでわかりにくければ、写真の「焼き増し」だと思ってもらえばいい。子供のカワイイ写真が撮れた。じいちゃんばあちゃんにも送ってあげようか、って時にカメラ屋行ってネガ渡して「これ、焼き増ししてください」って言うでしょ。あれみたいなもん。
映画一本分を「焼き増し」するのに、だいたい20万円ぐらいかかるんだって。大きいよね。これが、全国ロードショーだと最低100館は上映することになる。するとプリント費だけで2000万円だ。ちょっと大変な額だわな。
デジタルの場合のプリント費、というよりコピー費というべきか、いくらかかるんか知らんけど、これより安いのはまちがいないわね。デジタルの場合、コピーに必要な作業も素材もだんぜん安いから。
デジタル上映は、いまごごごごごと変わりつつある映画産業の変化のひとつなんだ。
変わりつつあるのは前回シネコンの件で書いたように、主に流通の局面での変化。デジタルでプリント費が安くなるのも、やっぱり流通の話。そう、映画産業はいま流通が変わりつつある。(もっと言えば、いますべての産業で起こっている変化は流通の変化なんだよね。そして日本の産業を硬直化させていたのは実はほとんどが流通に原因があった)
アドプリの話や流通の話をしたついでに、「配給」というものについても書いておこう。
仮にあなたが映画をプロデュースしたとしましょう。一生懸命お金とスタッフをかき集めて3億円でなかなかの面白い映画が出来たと。これを全国ロードショーしたとしましょう。そしたら10億円の興行収入をあげたとしましょう。3億円が3倍以上になったんだから、なかなかの成功じゃんと思うでしょう。
ところが、興行収入はまず、半分を劇場側がとります。つまり5億円は劇場主に、はいどうぞ、と手渡さないといけない。残ったのは5億円ですね。この5億円が配給収入というわけ。よく映画の成績について「配収」というけど、それがこの劇場主がとった半分をさっぴいた額なわけね。
うーん残りは5億かあ。まあでも、3億が5億になればなかなかいい投資だね。でもまだ、これではすまない。なぜならば配収の30%を配給手数料として配給会社、東宝とか東映とかがとっていっちゃいます。このケースでいえば1億5000万円がさっぴかれる。(この30%というのは時と場合により上下して、35%になることもあったりする。)なんだ残りはたったの3億5000万になっちゃった。
おっとまだまだあるぞ。ここでさっきの、アドプリを忘れちゃ困るね、と配給会社が言いだす。さっきも書いたようにプリント費でだいたい2000万円。宣伝費は全国ともなればテレビで予告も散々流したしってんで、1億5000万円使っちゃったんだよねと。トータル1億7000万円を引くと、あら残ったのは1億8000万円ぽっち。3億でつくったんだから1億2000万円の赤字じゃん。
実際はこのあと、ビデオ販売だテレビ放映だのの二次使用料でなんとかとんとんにはもっていけるもんらしい。でもとんとんだよ。なんか奇妙でしょ。だって興行の段階で3億を10億にしたんだぜ、おれってなかなかえらいじゃん。それがとんとん。劇場は小屋を持ってるってだけで5億。配給会社なんざ、アドプリは実費だからいいとしても、1億5000万円の手数料をもっていっちまいやがった。で、いちばん血と汗を流したおれは、出資者だの役者だの監督だのに頭下げまくってがんばったおれが、とんとんかよ。割に合わねえよ。と、あなただったら思いませんか。
もっとも、いまの計算は興行収入10億で計算したから「割に合わない」になるわけで、20億で計算してみると制作費を引いても2億あまり手元に残って、逆に「ウハウハじゃん、苦労した甲斐あったじゃん、映画製作やめられまへんなあ」となる。3億投資して元とったうえに2億粗利が出る商売なんてそうそうないからね。
ただし、興行収入20億、配給収入10億なんて、最近でいうと「リング/らせん」がそうだったけど、あれってまれに見る大ヒットだったわけでね。そんなにいかない、最初の例の興収10億、配収5億いく映画だってそうそうないんだぜ。(よくきまじめな映画ファンが、日本の映画会社はアニメに頼り切っててダメだなんてえらそうにぬかしやがるけど、アニメって確実にある程度の収入が見込めるソフトなわけで、アニメがあるから他の映画もやれるって側面がある、ってことぐらいは知っておけよな。映画はゲージツであるまえに商売なんだからさ。)
いやまあ、それにしても、ここでちょっと考えたいのが、映画産業における流通マージン。映画館つまり小売が50%、配給会社つまり卸しが50%×30%で15%の流通マージンをとっていることになる。合わせて実に65%。こんなにマージンをとる流通って他の産業ではあり得ないでしょ。もちろん、映画の小売つまり映画館経営は独特のビジネスで初期投資にしろメンテナンスにしろ大変だから、それは考慮しなきゃいけない。それでも、とにかく50%ね、っていうことでいいのかどうか。ましてや卸し、つまり配給手数料がまたとにかく30%ね、ってのもどうなの?根拠は何?ってのもある。
さらに、よーく考えると奇妙なのは、宣伝費。これはさっき書いたように配給会社がとりあえず出して、あとからさっ引かれるわけ。もっと詳しくいえば、「この映画に必要なのはだいたいこれくらいだろ」って配給会社が勝手に決めてあとから請求。宣伝の戦略や方法論も決めるのは配給側。卸しが宣伝戦略を決める産業ってある?メーカーが「この商品はこういう人向けに開発したからこういう宣伝でいこう」って決めるもんじゃん。メーカーって映画でいえば製作会社、なわけでさ。
ほらほらほら、やっぱりおかしい。映画産業は流通がおかしい。なんだか核心に迫りつつあるな、おれ。
というわけで、このテーマは次回に続くのでありました、乞うご期待!
(2000年3月18日)