前回、「この数日で二つ三つ更新」するなんて書いたことを後悔してたんだけど、ちゃんとこうして今週二回目の更新を果たしているじゃないか。えらいなあ、おれ。なんて、それでもこの二ヶ月の空白はまだまだ埋まらないけど。
藤山直美主演、阪本順二監督「顔」を見たぞ。
二年ほど前、「日本映画をぶっこわせ」をはじめた頃はマイナーな日本映画を一生懸命見ていたのが、最近ちょっとこういう作品にはご無沙汰してたね。「ミッション・トゥ・マーズ」とか「レインディアゲーム」とかくだらないハリウッド映画ばっか見てると、新鮮だなあ、日本映画。がんばってるよな。良かったよ「顔」は。
コンプレックスを背負って「引きこもり」気味のまま30代半ばになった女。美人で外向的な妹との長年の葛藤にケリをつけて殺しちゃった。そこから逃亡生活がはじまる。でも逃げるほどにだんだんイキイキとしていく。それまで、やりたくてできなかったことを少しずつ実現していく。逃げることでなりたかった自分になる、というあり得ないようで実はかなりリアルな話。また、陰鬱に思える設定なのになーんかさわやかで前向きな気分にしてくれる。力まずに見ればあなたも満足できるでしょう。
さてこの映画、見たのはテアトル新宿。この映画館、ある意味、「日本映画をぶっこわせ」なことを実際にやっているのね。
その話を続ける前に、ちょっとここであるホームページを紹介しよう。
堅いタイトルで、実際ある大学院の学生さんの論文のページですな。でも、テーマが「日本映画産業」だから映画好きには面白いはず。いや、はずどころかめっちゃ面白い。少なくとも、ここでぼくが書いてることにそこそこ関心ある人なら、まちがいなく感心する。いやー、ぼくなんかコーフンしちゃったもん。ぼくがもやもや考えてたことを、もっといろんなこときちんと調べて整理して提言までしている。日本映画界のエライ人々は彼をコンサルタントに雇うべきだね。
例えば彼は日本映画がDevelopment、つまり企画の段階にお金も時間もかけていないことを指摘している。これはぼくが再三「映画はまず脚本」と言ってることとほぼ同じ。ぼくは仕事を通じてそのあたりのずさんさを知ったわけだけど、彼はなんでわかってるのかしら。
そいでもって、彼がいちばん指摘してるのが流通。これもぼくが何項かに渡って書いてたことでしょ。しかも彼はもっと論理的で明晰な分析をしつつ、ある種の提言をしている。「中規模興行」という形態をね。
つまりね。
映画の興行というと、大きく分けて二つのやり方、全国100館以上で一斉ロードショーする大規模なものと、東京大阪のミニシアターで単館ロードショーする小規模なものがある。言ってみればメジャーとマイナーね。でも、大規模だとそれなりに予算をかけて映画の内容としても大規模にしないと客を呼べない。そうするとリスクが高い。一方小規模だととにかくたくさんお客が入っても高が知れてる。ようするに大規模はすっげえハイリスクハイリターンで、小規模だとあまりにもローリスクローリターンなわけ。これはビジネスとしてはけっこう難しい。
じゃあ中規模ならどうか。全国でせいぜい50館くらいの規模で興行する。これならミドルリスクミドルリターンとでも言うか、メガヒット商品にはなれなくとも当たればスマッシュヒットにはなる。はずれた時の痛手も少ない。
「メジャーとマイナーの間が必要」という話は例えば監督にも言えて、マイナーシーンで評価された監督がメジャーな大作を任される可能性はとても低い。「ミドル」という予算規模の映画市場ができれば、メジャーとマイナーの橋渡しにもなれるのかもしれない。(もっとも最近はけっこう若い監督が大作を撮れるみたいだけど)
で、この中規模興行はすでに行われていて、その好例がテアトル新宿なわけね。「日本映画産業論」にも出てくるんだけど、北野武の映画は最初は松竹系で興行されていたんだけど、途中から自主配給をやるようになり、その中心がテアトル新宿だってわけ。「顔」も製作に東京テアトルがクレジットされていて、かなり積極的に関わっているらしい。
さて、ここからが本題の「映画っぽいと興行規模」なんだけど、今日は疲れたので続きは次回へ。企画募集についても次回で。ひっぱるなあ。単に準備不足なんだけどね。
(2000年10月4日)