もはや有名無実と化した週刊宣言。忙しいからと自分に言い訳してるうちに「ミッショントゥマーズ」「どら平太」「レインディアゲーム」(えーっと、他にもあった気がするけど思い出せないなー)と見た映画がたまってしまい、忙しいんじゃなかったのかと自分で自分を批難してしまう始末。
忙しい中、やっと時間を見つけて観に行ったのに、三作とも物足りなかった。「ミッショントゥマーズ」は「アポロ13」と「2001年宇宙の旅」を足したような映画で、その分ねらいがあぶはち取らずな印象。とくに異星人と出会って以降のシーンは「2001年」の格調と奥深さの足下にも及ばない。「どら平太」は何の逆境も葛藤もないまま物語が進み、感動もへったくれもない。下っ端が古ダヌキを追い出すという話の構造は、同じ役所広司主演の「金融腐食列島」とほぼ同じなのに、「どら平太」はあまりに能天気すぎる。「レインディアゲーム」はゲーリー・シニーズ、ベン・アフレック、シャーリーズ・セロンと好きな役者ばかり出ていた映画なのにがっかり。どんでん返しにこだわるあまり、とんでもなく無理のあるシナリオだった。
という、はっきり駄作と言いきっていい三作品ながら、いずれも興行としては少なくとも失敗はしていない。今日観た「レインディアゲーム」なんかは、先週末の公開でいきなりボックスチャートのトップを飾っている。いずれもまあまあ成功しているのは、いずれにも「映画っぽい」がそれなりにあるからだと言えるんじゃないか。今日はそういう話。
まず「ミッショントゥマーズ」は火星探検の話。ほら、この時点で映画っぽいね。宇宙を舞台にすればそりゃあもう映画っぽいわけだけど、この映画は「火星探検」というややリアリティのある設定である点がより映画っぽいと言える。モンスターが出てきて宇宙戦闘機が出てきて、ではなく、数十年先に火星探検するとしたらこんな感じだよね、というムードが逆に興味をそそる。そのあたりがいちばん出ていたのが、回転して重力を生みだしながら航行する宇宙船だ。まっすぐに立つ人物と、逆さまに立つ人物が同じ画面の中で演技をする。なんとも不思議、映画っぽい。
そしてさらに火星で謎の建造物、明らかに知的生命がつくった何かが映画っぽい。テレビで流れた予告編でもその映像が一瞬見えて、それだけで「あれは何?」と映画館に行きたくなる。それが何かわかってきたら途端に映画はつまらなくなるんだけど、ある意味、そこまでで十分1800円の価値はあるんだな。
それから「どら平太」。これはもう、時代劇であるだけで映画っぽい。超のつく駄作「梟の城」が大ヒットしたことからもわかる通り、意外に時代劇は客が入る。だって映画っぽいじゃない。実際、一緒に見たわが事務所のアシスタント(26歳・女)も「わたし映画館ではじめて時代劇見ました」とやや興奮気味に言っていた。
美術もよく出来ていて、それを眺めるだけでも価値はある。あとは活劇として楽しめれば言うことないんだけど、そこがからっきしダメ。悪の巣窟にひとりで乗り込んでやっつけるんだけど、プロセスに何のアイデアもない。しまいにはひとりで50人をたたき切る。そんなに強いんなら、最初からやっつけに行けば何の問題もないじゃない。そう、この映画には何の問題も起こらないんだ。最後は悪玉のやくざや、その黒幕の老中達まで許しちゃう。そんなに苦労せずにうまいこといって、みんないい人でしたですむんなら、映画にすることないじゃないか。
そして「レインディアゲーム」。これは「犯罪がらみのどんでん返し」という、これまた映画っぽい題材。美女を恋人にしたいばかりに刑務所での友人の名を名乗ってみたら、極悪犯罪集団の仲間にされちゃった主人公。どんな機転で困難を乗り切るのか、また女は味方か敵か。うーん、映画っぽいねえ。それなりによく出来た話の流れを楽しめる。ところが、最後に最大のどんでん返しになると興ざめ。おいおい、そりゃおめえ、無理あり過ぎだろ。
この「どんでん返し」はビジュアル要素というよりシナリオ要素、つまりは論理要素なのに、映画っぽい。それはまさにシナリオは映像と同じくらい映画にとって重要な構成要素だという証だろう。もっとも、どんでん返しをやりすぎると「ワイルドシング」や「ゲーム」のように、しまいにはどんでん返し自体にあきちゃう。あるいは「シックスセンス」みたいにあからさまに「どんでん返し宣言」をされちゃうのも困る。(もっともあの映画はそのおかげで大ヒットしたわけだけど)
こうやって「映画っぽい」を分析していくと、いろんなことが見えてくるでしょ。
まず言えるのは、やっぱり題材として「映画っぽい」かどうかは重要だね。なんでも二時間くらいの物語なら映画になるのか。商品価値を持ちえるのか。そこを考えなきゃ。上の三作品にはまがりなりにも題材上では「映画っぽい」があるわけ。例えばなぜ犯罪を題材にした映画が多いのか。それは映画っぽいから。時代劇にせよ西部劇にせよ、ミュージカルにせよ災害ものにせよ、怪獣ものにせよSFにせよ、映画っぽい。卑近な例を出すと、いくら人気絶頂のアイドルでも、「駅伝」が映画っぽいのかどうかぐらいは、吟味すべきだよな。ちなみに「駅伝」はテレビっぽいのであって、映画っぽくはない。
そして、いくら題材が映画っぽくても、シナリオがダメだとダメだね。とくに大事なのはクライマックスで、そこに至るまでにどんな葛藤があり、そこでどんな解決があるのか。上の三作品は、そこがダメだったと思うんだ。「ミッショントゥマーズ」は異星人と出会ってからの展開が情けない。「どら平太」は50人切りに至るまでに何の困難もない。「レインディアゲーム」はカンジンの大どんでん返しに無理がありすぎ。
さて、こうやっていろいろ書くうちに、「商品価値のある映画」とはどんなものかわかってきたでしょ。いや、少なくともぼくにはわかってきたぞ。
で、こないだある読者の方から、「ネットなんだから双方向企画をやれ。仮想の映画企画募集なんてどうだ」というメールをいただいた。それ、面白そうだからやってみるかもしれない。乞うご期待。でも、めんどくさいからやらないかもしれない。ぼくも忙しくってね。やらなかったらごめんちゃい。
だいたい、そんな企画やるほどのアクセス数じゃないと思うしなあ。
(2000年7月4日)