「ショーシャンクの空に」って映画知ってる?スティーブン・キング原作の小説をなんとかダラボンとかいう監督が映画にしたの。面白いよ。長いけど、すんごく面白い。
で、それを見ていた映画ファンがいろめきたったのが「グリーンマイル」。同じ作家の原作を、同じ監督が映画化しているってんで期待ムンムン。ぼくもそのひとりだった。で、感想としては「ショーシャンク」の方が断然好きだし面白かったけど、「グリーンマイル」もかなりの出来だった。少なくとも、ほとんど刑務所の中だけで三時間の物語が進むのにちっとも飽きさせない。うーん、脚本が良く出来てるねえ。
さて、FILE10で「日本映画はハリウッドと戦わなきゃいけない」と書いた。で、あっちは平均製作費が20億。勝負にならないかも、でもやりようはあるかもって話を書きますね。
「グリーンマイル」は超大作じゃない。でもアメリカじゃヒットした。日本でも大入満員。これは最近のハリウッドの傾向で、今年のアカデミー賞のノミネート作なんかを見ても、どっちかと言うと製作費の少なめな、しかも新進気鋭の若手監督がつくった映画が大健闘している。並みの製作費じゃ描けないような大事件やSFXを駆使したスペクタクル映画じゃなくても、むしろ丹念に物語を書き込んだ作品の方がヒットしているってわけ。
これはちょっと映画が好きな人なら最近感じてることだと思う。シュワルツェネガーやブルース・ウイルスが出てきてズダダダダと機関銃ぶっ放したり宇宙を駆け巡ったりするいかにもお金のかかった映画って、なんだか飽きてない?それよりも、「おっ、こういう映画もありじゃん」って思わせてくれる何かがある映画の方が面白い、って気がしてる人はアメリカでも日本でも多いんだと思う。
そうするとさあ、ほら、日本映画もチャンスありじゃない?だって巨大な製作費をかけた映画じゃなくても、ヒットするのかもってわけだからさ。シネコンも上映してくれるのかもしれないんだからさ。ね、この映画は製作費はあまりかかってないけど、大作じゃないけど、こんなに面白い、だからお客さん入りまっせ〜という作品が出来ればいいわけね。
ひょっとしてあなたが映画監督になりたい人ならエエ話や。そうか、それなら大丈夫。これからはいい時代になるんだ。シネコン万歳。だっておれ、才能あるからお金かけなくてもいい映画撮る自身あるもーん。と思ったら大間違い、ではないけど、コトはそう単純じゃない。
ぼくは日本映画の問題点はそうとう脚本にある、と思ってるんだけど、それは日本に才能ある脚本家がいないというわけではない。もっと産業の仕組みの根本に関わってる。
「グリーンマイル」のダラボン監督は前作「ショーシャンク」以来五年ぶりの新作。その間何をしていたかって?詳しくはわからないけど、基本的に次回作の準備、具体的にはまず脚本を詰めてたんだと思う。
こんなことは日本映画の脚本家・監督ではまず考えられない。その違いは何?答えはお金。
ハリウッド映画を一本脚本なり監督なりをやってヒットさせれば、日本映画界では考えられないくらいのお金が手に入る。ヒットの度合いにもよるけど、「これヒットしたね」って映画なら、億単位だろうね。宝くじで三億円当たったら一生遊んで暮らすぜい、と思ってる人は多いだろうけど、そういう宝くじレベルのお金がぽーんと入ってくる。そしたらさあ、マジメな映画人なら遊んで暮らさずに次回作の脚本づくりに没頭できるじゃん。
日本映画ではまずありえない。ここには二つの理由があって、ひとつにはまず、日本映画はヒットしてもそうそうお金にならない。FILE7にも書いたけど、10億を稼いで「日本映画にしてはなかなかヒットしたじゃん」って映画でも、製作した人々に戻ってくるのは高が知れてる。そうすると脚本家や監督に返ってくるのは宝くじ以下どころか、わずかな額。そしてもうひとつは、日本映画はそういうスタッフにあまりお金を払わない。すごく有名な監督でも「え?映画一本つくってもそんなもんでっか」てな額しかもらえない。脚本家はもっとひどい。
すごく才能のある人でも、やっぱりある程度のエネルギーを割かないといい脚本なんかできやしない。良く出来た映画だなあ、と思うと「構想ウン年」なんて聞いたりするでしょ。黒澤や小津が旅館にこもって脚本を練り上げたのはFILE2で書いた通り。そういうエネルギーを割いたことに見合うお金が支払われないと脚本家業界は持たないよね。実際、いまテレビも含めて、脚本家って職業がよくなりたっているもんだと思う。成り立っているように見えるだけかも。そんな状態で次から次に「こりゃ面白いぜヒットするぜ」なシナリオを産み出せるはずがないじゃないすか。
あり?結局はハリウッドの平均製作費20億に負けるって話かい。うーん。いやいや、あきらめるな、へこたれるな、日本映画よ。
(2000年4月8日)