GPW杯2004自戦記
今年も11/12-14に箱根で開催された
Game Programing Workshop 2004
に参加してきました。
今回は、東大将棋の開発者の岸本さんのAND/OR木探索に関する最新の研究
成果に関する発表や、近山研のSVMを用いた将棋の詰み局面の判別手法など、
斬新かつ内容の濃い発表が多く、なかなか楽しかったです。また、市販ソフトの
開発者の方々とも交流することができ、非常に有意義でした。
このワークショップのサブイベントとして、GPW杯2004 というコンピュータ
将棋大会(なぜか人間棚瀬さんも参加)が開催され、私も「大槻将棋」を持参し、
参加してきました。
大槻将棋の結果は、5勝4敗で、10チーム中5位でした。
今大会は、審判サーバを用いた新通信方式により対戦したのですが、私のソフトには
新通信方式用のオプションを用いた場合に、定石が読み込めないという
不具合があり、えらくばたばたしてしまいました。
また、戦略オプションとしては、ぎりぎりまで矢倉のインプリをして居飛車で
臨もうと努力したのですが、スムーズに囲うことができず、無駄な手を指して
いるうちに速攻されて滅びるというパターンが頻出したので結局断念し、無難に
振飛車で臨みました。
のはずだったのですが、なぜか一局目の奈良将棋戦で、
矢倉になってしまうという謎のハプニングが・・・。
以下、自戦記です。
なお以下の棋譜表示には 勝田将棋盤 V2.3 を使用させていただいています。
一回戦:vs 奈良将棋戦 ●
相矢倉。
いきなり初手から真っ青の展開になる。私は飛車を振ると
考えているのに、飛車先の歩をつきはじめ、手損を繰り返しながら、矢倉もど
きを囲いはじめた。原因はTCP/IP通信の場合に、定石と戦略の初期化ルーチンが
スキップされていたためであった。
38手目の時点は、後手の都合5手損である。これでも勝負になるのがコンピュータ将棋の
不思議なところ。44手目▽38角はぎりぎりの反攻。ここで
▲23角の攻めが気になるが、▽22歩で受かっているのかな。以下飛車を逮捕して、銀香を取れた
のは大きいが、▲11角成から▲26香の攻めも強烈で、この順を防ぎつつ、攻めた方がベター
だったようだ。以下は泥試合だが、76手目▽51銀が感触のよさそうな受けの手でこの辺りでは、
後手有利かもしれない。94手目▽97香不成はさすがにひどくて、せめて▽97香成、
本命は▽95桂だろう。以下も、いろいろ寄せの手があったと思うが、
終盤力の差で逃げられてしまった。
私は通信まわりのコードに関しては中身を理解しておらず、
またテスト環境もないため、この後の対局も、定石なしで突き進んでいく。
二回戦:vs HIT将棋戦 ○
三間飛車 対 向飛車。
一応、戦形(三間飛車)だけは与えることができたが、依然として定石は読み込めず。
そのため、3手目まではおかしい。
41手目▲85桂は機敏な手だが、果たして読みが入っていたのだろうか?結果論としては、
端が破れて一気に終局した。相手が全く探索しないソフトらしく、2人で協力した勝ち
のようで、あまり素直には喜べない。
三回戦:vs GPS将棋戦 ○
居飛車 対 三間飛車。
やはり定石を読み込めていないが、16手目当たりでは、通常の将棋に復帰している。
32手目▽45歩の形は、一本取っているはずで、▽44銀 ▽54歩のような形をつくって、
この45の位を確保して欲しかった。特に40手目は▽45歩でしっかり位を確保しないとおかしい。
逆に先手に41手目▲45歩と抑えられては、苦戦である。
先手に▲45歩と打たれても、すぐにどうということはなく、持ち歩の価値の方が高い
と判断したようだ。しかし、実際は要の位をとられた上に、▽42角▽33銀の形を強要され、
身動きが取れなくなってしまった。
しかし、先手玉は薄いので実戦的にはまだまだ難しい。お互い動きづらくなったが、
64手目▽84歩と隙を
作ってしまう。以下72の銀を動くのを嫌がって後手の歩損確定。先手の▲85桂は端を狙った良い
手で、すぐ端攻めにこられても厳しかったと思う。以下、先手にだけ打開のチャンスのある
膠着状態が続く。またしてもぬるい114手目▽71玉が出て、ついに先手からの端攻めがやってきた。
端攻めが受からないと見たのか、以下は水平線気味にあばれて、どんどん差が広がっていく感じ。
ただ、GPS側も残り時間が少なくなったためか、手が荒れ始める。以下は後手の攻めが指しきるか
どうかの展開になったが、最後は後手の細い細い攻めがつながって勝ちになった。
四回戦:vs 棚瀬さん(人)戦 ●
三間飛車対居飛車穴熊。
なぜか人間(東大将棋の作者)との対局で、しかも優勝候補である。
先手のへぼ三間飛車に対し、コンピュータを知り尽くしている棚瀬さんに、
端歩を付いた余裕の穴熊にされてしまう。
27手目▲95角とかして、追い返されている場合ではない。60手目前後の7筋の捌きあいは、
後手玉が穴熊な分だけ損をしている。77手目の▲92歩は、(ただの水平線という噂があるが)
ちょっといい手で以下本譜のように▽92同香▲91飛と進行すると一応9筋が受かっている。
ただ、82手目▽77歩成とされていたら、決まっていただろう。85手目▲86銀が一瞬のチャ
ンスを逃した逸機で、ここで▲72飛と打てていれば、まだ難しかったと思う。89手目
▲57金はお手伝いで、▲48金寄か、先に▲32飛成かだろう。本譜のように金を取らせてから、
▲32飛成だと、▽31金とはじく手が生じるので効果が薄い。以下はどうしようもない。
五回戦:vs Spear戦 ○
三間飛車 対 居飛車。
依然としてすさまじい序盤である。初手▲76歩の価値がいかに高いかが分かる。
ただ、何とか自力でまともな将棋に戻しているのは評価できるとも言える。24手目▽95香ならば、
▲31角成で二枚換えで勝負といくつもりなのだろう。田舎道場のハメ手おやじみたいな
将棋である。ただ、この歩を取り返せないようでは後手おかしくて、なぜかこちらが有利な
展開になった。以下この差を保ちながら終盤に入る。75手目の▲79歩は、後手の攻めを遅らせる好手。
以下は快勝。
本局の反省から以下の対局では、先手の一手目▲76歩だけは登録した。
六回戦:vs まったりゆうちゃん戦 ○
居飛車 対 三間飛車。
前局後に、先手の一手目だけは登録したのだが、後手でも本局のような悲劇が起き
てしまった。以下苦しい序盤だが、16手目あたりでは何とか凌ぎきったようで
ある。先手からの7筋の攻めは形によっては厳しいが、玉が82に居ないので耐え切れる
形のようで、逆に44手目▽27角成以下、先手の飛車をいじめる手を含みにして優勢になった。
以下は、先手が水平線っぽい手を連発してきたため、手数は伸びたが形勢はどんどん
開いた。以下快勝。
七回戦:vs 柿木将棋戦 ●
三間飛車 対 三間飛車。
ようやく、後手の2手目▽34歩もインプリして、後顧の憂いもなくなり、快調な滑り出し。
と思ったが、3手目▲16歩、これって定石なんでしょうか?(だれか教えてください)10手目
▽72飛は一手損でここは敢えて受けなくてもよいところ。序盤の早いうちは、7筋は交換さ
せて、逆に盛りあがったほうがいいらしいが、こういう感覚を実装するのは難しいかもしれ
ない。相振りの方向性の実装は難しくて(と言い訳しつつ)、以下後手は手損を重ねてしまう。
極め付けは、39手目▽36歩でこのタダ捨てで、将棋を台無しにしてしまった。相振りで一歩損
は痛過ぎる。以下は▽12飛までとがめられて、ジリ貧負け。
八回戦:vs うさぴょん戦 ○
私のミスで、今のところ棋譜がありません。棋譜が手に入り次第掲載します。
結果は相手の時間切れによる勝ちでした。
九回戦:vs TACOS戦 ●
向飛車 対 居飛車。
無難な感じの出だし。30手目▽25飛はどうだったか?しかし、五段目に飛車がいると、
先手も▲86歩とはいきづらいので、コンピュータ的にはいいのかもしれない。
とはいうものの、▽25飛▽44角型からの端攻めは強烈で、ほぼ1筋は制圧されてしまった。
左辺は破れているだけに、せめて50手目は▲18歩として欲しかった。以下も、68手目▽54角
などものすごい圧力をかけられて必敗かと思ったが、89手目からの▲12飛打▽22銀打▲34桂
が(多分偶然の)物凄い勝負手で、以下勝負手連発からの細い細い攻めがなんとも受けづらく、
難解な形勢となった。ここから50手くらい攻め続け、多分決め手もあったと思うが、135手
目に▲48香と自陣に打ってしまってからは見込みなしである。▲51飛打から、まだまだ絡む
手はあったと思う。以下は、▽62角が攻防の絶妙手で負け。
おわりに ---今大会をふりかえって---
結果は5勝4敗の5位とまあまあの成績でした。
5月の大会に比べ有意に強くなっているのかあまり自信がなかったのですが、
棋譜を見た感じでは、どうやら香一枚くらい強くなったのではないかと考えてい
ます。また棚瀬さんとの対局の感触では、人間相手でも初段くらいはあるかもし
れないと感じました。
TACOS戦や奈良将棋戦などは毎度ながら、中盤は結構いい勝負をしているのですが、
終盤力でひっくり返されてしまう傾向があるようです。終盤力強化が今後の最大
の課題でしょう。
あと、そろそろ穴熊と相振り対策をまともにやらないと、通用しないと思われます。
いつもながら課題山積。
2004.11.28 大槻知史
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