第19回世界コンピュータ将棋選手権二次予選自戦記
〜革命前夜〜

今年も、コンピュータ将棋選手権に参加してきました。 大槻将棋は、5/4の二次予選がぎりぎり通過だったにも関わらず、 決勝で6勝1敗という信じられない成績を残し、何と準優勝となりました。

皆様の努力と活躍により今年も本当に素晴らしい大会であったと思います。
特に瀧澤先生を筆頭とし、運営に当たられた方々には本当に感謝です。
数年ぶりの会場変更と言うことで、本当に大変だったのではないでしょうか?

ただ去年までのかずさアークの会場としての素晴らしさも改めて実感しました。
やはり広い所の方がよいですね。
この経済状況では仕方ないのでしょうか・・・。

関係者の皆様本当にお疲れ様でした。

 

大会前の話

去年のGPWのGPS金子さんの論文に刺激を受け、正則化の論文を読んだり、ムーブオーダリングのための学習を検討したり したのだが、結局どれもうまくいかず。
そこで2月くらいからは、去年バージョンの改善に方針転換。
よって去年からの技術的な差分は、実はあまり大きくなく、やったこととしては、

1, ボナメソベースの評価関数学習手法、feature の洗練 
2, 去年まで時間を使わずに負けていたのを修正し、序盤からじっくり考えるようにしてみた。

くらいだろうか。去年バージョンに対して勝率6割にいくかどうかくらいの伸び代しかなかった。

去年から加えたfeature は大体以下のようなもので、どっかでみたようなものばかり・・・
結構直前に滑り込んだものも多いです。

・(主に自陣にある)連接する味方駒2駒の絶対位置関係(たとえば、67金と77銀の関係とか)
・穴熊の場合に8近傍に相手の長い利きがあるか
・玉が右(左)側にいる時に味方の金が右(左)側に一枚もない
・玉が右(左)側にいる時に味方の銀が右(左)側に一枚もない
・玉が右(左)側にいる時に味方の飛車が玉よりも右(左)側にある
・自陣に生角(生飛)があり、かつ相手は竜ができている
・自陣に生角(生飛)があり、かつ相手の馬が隅2*2以外にできている
・自陣に生角(生飛)があり、かつ相手のと金が自陣2,3段目の端以外にできている
・角の斜め前利き上に相手駒がある時の相手駒と相手玉との相対位置関係
・飛車の横利き上に相手駒がある時の相手駒と相手玉との相対位置関係

今年はBonanzaのソース公開により、ともかくBonanza 4.0 には勝てるソフトを作らねば決勝進出はないだろう と思っていたにも関わらず、どうしても追いつけない状況。また既にリークしている通り、大槻将棋は密かにfloodgate に投入されており、 文殊にはかなり苦戦、GPSにも少し苦戦という予想。その上、未知数のKCC、去年1年目で大健闘した習甦など強豪ひしめく。 そんなこんなで、とても決勝進出安泰とは言えない現実があった。

二次予選

以下、二次予選自戦記です。
なお以下の棋譜表示には、勝田将棋盤 V2.3 を使用させていただいています。

一回戦:vs あうあう将棋戦 ○

居飛車 対 四間飛車。
あうあう将棋さんは一次予選からの勝ち上がり組。
オーソドックスな立ち上がりから、あうあう将棋が11手目▲36飛と歩を取りに来る。 これは多分ちょっと無理目なのだろう。▽45歩から、うまく飛角を交換して、 24手目の▽74角から▽38角成が決め手。以下粘るのはかなり難しい将棋になってしまったようだ。 とは言えこういった将棋をきちっと寄せ切ってくれるのは頼もしい。 幸先の良いスタートを切れた。

1勝0敗。

二回戦:vs マイムーブ戦 ○

相中飛車。
次は読みが深く安定感抜群のマイムーブ。
相中飛車は一触即発で、たまにあっという間に敗勢になることがあり少し怖い。と思って見ていたら、 先手が▲68銀と上がった瞬間に機敏に22手目▽88角成と形を乱しながら角交換。この辺りはボナメソ は逃さない。と思ったら、マイムーブはこの金を前進させる。9筋の端攻めが嫌だなと思ったが、そちら からはこず。▽24角は少し変わった手に見えたが、好手だったか。▲97角と受けるしかないようでは、少し 得したかもしれない。以下、角を追おうとすると形が乱れるのでやってこないだろうと思っている大槻将棋 と、角を追いたいけど余り形は乱したくないマイムーブの微妙な攻防の結果、うまく角を逃げ回っている内に 大槻将棋が優勢となり、再び角交換になったところでは勝負あったか。以下は的確に寄せきった。

2勝0敗。
 

三回戦:vs Blunder 戦 ○

相矢倉。
Blunder は何と初出場だが、結果的に決勝次点となった、今大会二次予選の台風の目の一つとなったソフト。
オーソドックスな相矢倉の形から26手目ちょっと早い▽85桂。これに▲88銀と催促したため、ここからは 死ぬ気で受けに回る展開に。なるはずが先手も攻め合いにいったため大乱戦に。46手目▽76銀とこちらにいったのは 少し勿体無かったか。以下は切れ気味になってしまった。ここからゆっくりいけば良かったように思ったのだが、 ちょっと焦ってしまったか、67手目▲64香打から▲63香成の構想はさすがに無茶で、ここではひっくり返っていたかもしれない。 香を渡したために逆に▽62香が成立してしまい猛攻を浴びる結果となってしまった。何か読みぬけがあったか。 以下は難しい攻防だったが、どこかで逆転したようだ。冷や汗の一局であった。
まだまだいくらでも伸び代はあると思われるので、今後が楽しみなソフトと思った。

3勝0敗。

四回戦:vs KCC将棋戦 ●

四間飛車 対 居飛車。
KCC将棋は、3年ぶり出場。久しぶりの参加となった。

将棋は四間穴熊 対 居飛車の対抗形でひとまず囲ってからと思っていたら、32手目▽14歩。何と 突きこされた方からの端の逆襲。今大会最も衝撃を受けた手であった。強い人が見ると「ある手」らしいが、 実戦の44手目▽25桂位まで読み切らないと、コンピュータでは流石に評価が上がらず、▽25桂を防ぐ 手も色々あるので、なかなか読みきれないと思うのだが・・・。

横を向いて話している間に銀香交換となり何が何だか分からないでいると、桂を跳ねられたところでは、実は受けがなく、駒損になってしまった。 以下は無理攻めを的確にとがめられ完敗。思考時間4分で吹っ飛ばされてしまった。 今年の二次予選はやっぱり厳しいなあと感じ始めたのはこの頃だったか。

この二次予選のKCCは文句なく最強だったのではないか?
どうも決勝は何か設定ミスがあったらしく、残念なことになってしまった。

3勝1敗。

五回戦:vs 文殊戦 ●

四間穴熊 対 居飛車穴熊。
次はfloodgateでとてつもないrating を叩き出していた文殊。
Bonanza 6台の合議制という新たな試みをした大変興味深いソフトである。読みが不安定な時には思考時間を延長するとか、色々工夫をしていて、何か今後の可能性を感じた。欲を言えば、6台それぞれに何か個性があればより面白いと思ったのだが。
まともにやっても勝つ気がしなかったので、右四間に誘導。さらに30手目▽46角と歩を取ったところで、ちょっと有利になったかと 思った。数年前なら必勝という所だが、最近は駒損に対して手得を主張できる程序盤が上達してきたのかもしれない。 一方大槻将棋は、▽42銀▽33角という愚形を作ってしまい、劣勢になった。53手目▲75歩も上手い手で、74に誘導された銀は 最後まで働くことはなかった。何とか悪形は解消したのだが、全力で▲88角を取りに行ってしまい少し形勢を損ねた。 最後は109手目▲77歩と馬筋を止めたのが当然ながら好手で、以下はいくばくもなく敗北した。

3勝2敗。
後1個しか負けられないため、GPSと、文殊を破った習甦のいずれかには勝ち、かつ他には全勝が必要という厳しい条件となった。

六回戦:vs 備後将棋戦 ○

四間穴熊 対 居飛車穴熊。
完全スイス式なので、この辺りからの相手は全て強豪。備後将棋はここ数年の決勝の常連ソフトだが、 何とここでは共に2敗の生き残り決定戦となった。 この備後将棋が今大会は14位。何と二次予選のレベルの上がったことか。

オーソドックスな出だしから、47手目先手から▲45歩の仕掛け。51手目▲45桂は薄くなるので 気持ち悪く思えたが、結果を見ると一応無理とも言えないのだろうか。57手目に角も桂も成らずに ▲64歩がプロ好みの一手という感じで、ここからは徐々に良くなった気がする。うまく相手の攻め をかわしながら両桂を跳ねた辺りは多分優勢。その後ちょっともたついた感もあったが、きっちり 一手差を保って制勝した。

4勝2敗。生き残りの戦いは続く。
 

七回戦:vs TACOS 戦 ○

居飛車 対 四間飛車。
TACOSも最近の決勝の常連。去年と全く同じ展開で7回戦でTACOSと当たった。

急戦の立ち上がりから先手が▲34歩の拠点を上手く利用し、TACOSが少しずつ優位を拡大する展開。 47手目▲24歩と打たれた辺りでは、抑え込まれてどうしようもない形勢になってしまった。 51手目辺りで▲23歩成と来るとか、どこかで踏み込まれたら、かなり厳しい将棋になっていた気がするが、 どうも7筋で怪しい歩の打ち合いをしている間に形成が急接近したようだ。この辺りTACOSに何か 誤算があったかもしれない。96手目▽77桂成辺りから形勢が混沌としてきた。 ただしこの時点で既に思考時間に10分程度の差がついており、大槻将棋には厳しい展開となった。 以下は本当に難解な訳の分からない二転三転の終盤戦だったが、最後は偶然丁度良い当たりに ちょっと難しい詰みがあったようで、時間切迫の中何とか勝ちを発見し た。相当危なかったが辛勝。今大会最も大きな1勝であった。

これで5勝2敗。何とか決勝まで後1勝?という所までこぎつけた。

八回戦:vs GPS将棋戦 ●

三間飛車 vs 居飛車。
この時点で7連勝のKCCと、6勝1敗のGPSはほぼ確定。
以下例年通り2敗3敗チームだらけの大混戦となった。ここでGPS。
これまで決勝進出の力を持ちながら、なかなかトップレベルには届かなかったが、 最近、評価関数の学習手法に新しいブレークスルーを起こし、Bonanzaメソッドの新境地を切り開いた。 今回の前評判も高いチーム。

オーソドックスな対抗形から40手目▽88歩と打ち、駒得が確定したので良くなったかと思ったが、 そんな単純ではなかった。48手目▽35歩も急所かと思ったが、51手目▲55角から▲34香と上手く逆用されてしまった。 37の角よりも31の金の価値の方がずっと高いという判断は恐れ入った。 このあたりまではまだ難しかったが58手目の▽92角で決定的に悪くした。 この角は利きの数が多く一見はたらいていそうに見えるが、 美濃囲いに対しては、一路違うだけで全く無駄駒になるらしい。

最後も先手の駒が少なく結構難しいかと思ったが、95手目の▲33香が気付きにくい好手のようで、一気に寄ってしまった。 99手目の▲71飛不成は若干謎だが、本譜はかなり手数の長い必至の順で、この手順を読み切るとはさすがである。 最後の▲15香打ちとかは読み抜けていそうで、要反省。

5勝3敗。今年も後がなくなった。

九回戦:vs 竜の卵戦 ○

四間飛車 対 居飛車。
上位で唯一当たっていなかったため、文殊を破った強豪習甦と当たるかと恐れていたが、最後は竜の卵。
3敗チームが多く、勝っても即決勝進出とはならない微妙な展開だったが、まずは勝つしかない。

竜の卵は、選手権では7年連続8回目の対戦。しかも毎回ラス付近の勝負将棋で当たり、大抵勝った方が決勝に行っている。今年も大一番での勝負。本当に信じられない巡り合わせである。

こちらだけ穴熊に組みあがった段階で戦いが始まり少し良いかと思ったが、上手く飛車を成られてしまった。ただちょっと駒不足気味で工夫が必要に思われたが、そのまま攻めてしまったため切れ模様に。切らすのかと思ったら今度は果敢に寄せに出てそのまま押し切った。

これで6勝3敗。後は他の展開次第。

九回戦の後

勝つには勝ったものの、まだ他力の状態。
文殊・習甦は共に勝って3敗を守りほぼ決勝進出確定。
残る椅子一つをかけて3敗の3チームが争う構図となった。

K-Shogi対Blunder の3敗対決 が命運を握る状況と分かっていたので、K-Shogiの応援に回った。
最後の最後まで残った対局の結果はK-Shogiの勝ち。
この瞬間最後の決勝進出チームが決定した。

運命の針は大槻将棋に振れた。
5位で決勝進出!!

結果的にもし勝敗が逆になっていた場合、ソルコフ同点SB1点差という歴史的僅差でBlunderの決勝進出が決まっていたようだ。

今年も長い一日が終わった。熾烈さを増す二次予選を抜け、何とか今年もファイナリストに名を連ねることができた。 この時点では完全反省モードで、ダントツの最下位候補だと確信していたのだが・・・。

ドラマはこれだけでは終わらなかった。

決勝編に続く。