第16回世界コンピュータ将棋選手権自戦記(決勝編)

決勝は、選ばれた上位8チームのみが参加できる、特別の場所です。 遂にここまでこれたという感慨がありました。 ただ、出場ソフトのほとんどは、複数CPUを搭載したマシンで臨んでおり、 まず、ハードだけを見ても、非常に見劣りする感は否めません。ただ、決勝進出5チーム のうち、前日に3チームには勝っていたので、一勝くらいはしたい(or できるだろう) と考えていました。

以下、決勝自戦記です。
なお以下の棋譜表示には、勝田将棋盤 V2.3 を使用させていただいています。

一回戦:vs TACOS ●

相居飛車?の力戦形。
前日に続いての対戦。 前局は振飛車で土俵際まで追い込まれたので、居飛車にしてみた。 ただ、ランダム定跡が3手目▲16歩を選択してしまい力戦形に。 端歩を好評価し過ぎたためか、無駄に両側突き越してしまい、こちらの手が遅れる。 さらに、飛車先を77金で受ける悪形になり、どんどんひどい形に。37手目▲57桂も 水平線みたいな手。ただ、怪しくあやをつけているうちに、角を切ってきた。 お互い玉が薄いので、先手玉が16の空間を生かせる展開になれば、 何とか少しは勝負になるかという展開に。以下、ぎりぎりのつぱ競り合いがあり、 ひいき目には、一回くらい逆転のチャンスがあったかと思ったが、135手目の▲62銀あたりから、 急激に評価値が悪くなり、駄目にしてしまったようだ。0勝1敗。

二回戦:vs 竜の卵 ●

相居飛車。
再び、昨日に引き続いての竜の卵戦。今回も居飛車で臨んだ。 13手目無意味な▲22角を打ってみたり、41手目▲18飛と怪しい、誘いの スキを作ってみたり(考えようによっては、48飛とまわる間合いを計った、プロ好みの一手である) と、相変わらず怪しい序盤だが、相対的には、 随分まともな形に組みあがった。しかし、その後、35に突っかけて銀を26に隠居させたり、 玉頭の歩を突っ掛けたりしたのは余計で、反省点。以下、こちらだけ馬を作って引き付け、 不敗の体制を作り上げる展開に。 ただ、大槻将棋がここから安全勝ちできるわけもなく、コンピュータ的には、ここからの勝負。 馬を作りあって、109手目▲23歩とかはよさそうな手で、今日もうまく寄せてくれるかなと期待したが、 113手目▲46馬はいかにも駄目そうな手で、ここからは怪しい流れになった。▲33銀成▽同銀▲84金とかで、 うまく攻めていたらどうだったか。昨日の勢いならば、 29[sec]くらいで、正着を指しそうなケースだが、運に頼るようでは、まだまだ甘いということだろう。 以下は、きっちりと寄せられて負け。0勝2敗。

三回戦:vs 柿木将棋 ●

先手振飛車穴熊 vs 後手陽動?振飛車。
昨日に続いての対戦だが、今日はどうせ穴熊だろうと思っていて、 居飛穴と振穴とどっちを攻めるのがよいかという判断に迫られた。で、結局居飛車にして、 振穴攻略の方を選択。しかし、5筋に飛車を振った瞬間に、振飛車(の囲い)に戦略 変更してしまうというバグ?があり、玉を遠路72まで移動する (手損)陽動振飛車みたいな形になった。玉形が違いすぎて、相当悪そうだが、 60手目▽57銀と歩頭に打ってしまったのが多分、致命傷。ここから急転直下に 悪くなった感じ。以下はなすすべなく負け。0勝3敗。

四回戦:vs KCC将棋 ●

先手居飛車vs後手振飛車の対抗形。
昨日1位通過の暫定4位ということもあり、ここまでは下位との対戦であったが、 ここからいよいよシード組との対戦が始まる。 とはいっても、KCC将棋とは実はものすごく相性が良くて、過去の戦績は2戦2勝。 過去2回は、実力的には、全く足りていないはずなのだが、何故か勝つというパターン が続いていた。ようやく、勝ってもまぐれと言われないところまでやってきたのだが・・・
過去2度とも振飛車で勝っていたので、今回も縁起を担いで振飛車にしてみた。が、▲96歩に端歩を 受けず。今日も序盤がおかしい。33手目▲54歩と垂らされていたら、一本取られていたような気がするが、 引いてくれたので、ほっと一息。と思ったら、突然▽94歩ととんでもないところから突っ掛けてしまう。 また、▽25銀が遊んだこともあり、以下は、あっという間に敗勢になってしまった。 KCC戦の不敗記録もストップ。0勝4敗。
 

五回戦:vs Bonanza ●

相振飛車。
ここまでは、ことごとく返り討ちにあってきたが、今度はこちらが 昨日の借りを返す番である。しかもBonanzaはここまで、3勝1敗の首位。優勝 が見え始めている。昨日はひどい形で負けてしまったので、何とか 一矢報いたいところ。
戦形は、昨日居飛車で負けたので振飛車にしたところ、相振りになった。 めずらしく手損もなく組み上げて安心していたら、▲84歩に対して28手目、えっとなる。 何で、取らないのか、ここで▽同歩と取れないのは、さすがに問題外だろう。 その後、端を攻めてきたのは、さすがBonanza。▲83香と打たれると終わってしまうので、 必死の凌ぎに。44手目▽93同玉は最善の頑張りだったらしい。ただ、その直後の ▽77角成は、まずい手で、ここは、角交換は拒否して、何とか局面を収めたいところ。 以下、あっという間に負かされるかと思ったが、ここからはなかなか頑張った。 77手目▲91と などがぬるくて、飛車交換になっては、随分挽回できた。 次いで90手目▽24桂から反撃に転じたのが、自慢の手で、勝又五段にも随分褒められた。 以下が本日唯一最大の見せ場。92手▽44馬 とか勝負勝負といくあたりは、 かなり迫力を感じた。以下、相当駒を持っているので、(98手目いきなり▽26桂とか)何かありそうなところでは あったが、発見できなかった。このあたり、Bonanzaの勢いに残念ながら後一歩 及ばなかったようである。0勝5敗。

六回戦:vs 激指 ●

先手振飛車 vs 後手居飛車の対抗形。
この当たり、ほぼ全敗は確定したなという感じ。今日の流れでは、激指、YSS などというビッグネームにはとても勝てる気がしない。決勝でないと当たれない相手なので、 当たれるだけでも幸せというところもあるが、当然やりたくない相手である。 ともかく勝負形になってくれればと思っていた。
将棋は、37に桂を跳ねられなかったものの、比較的美しく銀冠に組め上々の滑り出し。 59手目の▲88角と飛車交換を挑んだ手は、個人的にはあまりよくない手のような気がするが、 どうなのだろうか。この辺りの応酬は、かなり微妙なところがありそうで、私如きには、 あまり無責任なことは言えない。71手目▲91竜は、結果的に後手の角をはたらかせてし まったのでまずそう。▲77桂と桂交換にいったほうがよかったか。87手目▲18銀 も1手PASSみたいな手で多分悪手。119手目の▽16桂からは非の打ち所のない見事な寄せで、 こちらには、全くチャンスが巡ってこなかった。さすがは昨年王者と脱帽の一局。0勝6敗。

七回戦:vs YSS ●

相矢倉。
最後は勝てば優勝の目が残っているYSS。
将棋は、途中までは良い感じで矢倉に組めたが、端歩を突き越させたり、 98香と上がったり、玉が囲いから逃げ出したりと、怪しい展開。酷い序盤 に対しては、何度も出すぎて、もはや何とも思わなくなりつつある。以下、 桂は取られたが、3歩との交換と、54の垂れ歩があれば、意外に勝負になっている のではないか。と思っていた。以下は、少しづつ評価関数が悪いのと、 読み負けているのと、玉形が悪いのとで、捌きあった時点では敗勢になってしまった。 このあたりの駆け引きの巧さは、さすがビッグネームである。以下はあっという間に 寄せられてしまった。0勝7敗。

おわりに ---今大会をふりかえって---


今年は、1月くらいに一念発起して、大幅な設計変更を行ったのですが、4月の 始めくらいに、将棋倶楽部24で対戦させたところ   「rating が 去年と変わっていない」= 「シード落ちの危機」    ということで、かなり焦りまくっていました。ところが、不思議なもので、こ の1ヵ月あまりのデバッグとチューニングにより、随分安定感を増し、急激に 強くなっていたようです。といっても、これは結果論というところがあり、事 前にはろくに評価もできていなかったので、実は選手権の安定した指し回しを 見て、我ながら、かなり関心していました。 技術的には、YSSの実装に倣って、最善手を防ぐ手、キラームーブ、直前手ハッ シュにある手、などのハッシュの情報を活用する手生成を、かなりゴリゴリ生成 するようにした点が最も効果があったのではないかと思っています。
ただ、直前に大きな設計変更をしたために、序盤の戦略・定跡・評価関数のチュー ニングにあまり時間を割けなかったのが誤算でした。その弱点を何とか誤魔化せた 「二次予選」、もろに突かれた「決勝」、という構図が、別人のような結果になった 原因ではないかと考えています。さすがに決勝ソフトは格が違うなと感じました。 決勝リーグでは、ひどい結果になってしまいましたが、 来年以降の目標ができたと前向きに捉えたいと思います。
今回は、大会中は、少し体調不良気味だったこともあり、あまり多くの人と話せ なかったのが残念でした。また来年お会いしましょう。

2006.5.21 大槻知史