第16回世界コンピュータ将棋選手権自戦記(二次予選編)

今年も、コンピュータ将棋選手権に参加して参りました。
大槻将棋は、5/4の二次予選を、何と1位通過!!! 、5年目にして、 ついに念願の決勝リーグ進出を果たすことができました。

今年の話題は、何といってもBonanza。初出場初優勝は凄いのひとことです。 独自の手法で、並居る強豪を撃破したのは素晴らしい。私としては、 だらしない将棋で、Bonanzaに2勝も献上してしまったので、少し悔いが残ります。
今大会の大槻将棋の結果は、二次予選は8勝1敗の1位、 決勝は0勝7敗の8位と、別人のような結果を残しました。

今回は、最後の1ヶ月くらいの追い込みで、ある程度強くなった感触は あったのですが、実は、あまり強さを評価をしている暇がなくて、ぶっつけ本番の ような感じでした。まさか決勝に進めるとは思ってもみなかったので、非常に驚きでした。

例年は、4月に入ったくらいには、作戦を決定し、その作戦で、ひたすらチューニング していたのですが、今年は、作戦をチューニングしている暇が結局取れませんでした。 にも関わらず、居飛車に挑戦しました。

強くなってきたここ数年は、選手権で居飛車を採用したことはなく、少々不安ではありましたが、 市販ソフトとの対戦では、そこそこ高い勝率を上げていたので、勝負してみました。さらに 経験不足を補うために、棋譜から(棋譜のレベルや指し手の善悪を一切無視して)抽出した、怪しい 定跡ドーピングをして臨みました。結果は・・・。
以下、自戦記です。
なお以下の棋譜表示には、勝田将棋盤 V2.3 を使用させていただいています。

一回戦:vs Bonanza ●

先手振飛車穴熊 vs 後手居飛車穴熊?の対抗形。
今大会、話題をさらったBonanzaといきなり対戦。順位の関係で、昨日から予測はしていたものの、 大変な相手である。対局はよーいどんで、いきなり21手まで定跡で進み、▽12香まで上がってしまった。 でたらめ定跡の恐ろしさを思い知らされる。 えっ、居飛穴できるの?とか思っていると、案の定、▽31金 と指してくれない。 しかも、▽33桂 などと上がってしまい、ただの金銀分散形になってしまう。後は駄目で、 うまくさばかれてしまった。ただ、100手目▽35桂 104手目 ▽25香 などと打てるように なったのは収穫で、最後は、1.5手差くらいまでに持ち込むことができた。ただ、相手は天下の Bonanza なので、的確に寄せられてしまった。
0勝1敗。

二回戦:vs KFEnd ○

相矢倉。
KFEndさんは、何度も決勝に進出している強豪。だが、不思議と(というか、実力が違いすぎて?) 今まで一度も当たったことがなかった。楽しみな対決である。
大槻将棋は性懲りもなく矢倉。 しかし、ここでも調整不足がたたり、▽32金、▽43金が上がれない。その結果として、▲35歩 の攻めを1歩損しないと受けられない展開となり、いきなり不利に。ただ幸運にもぎりぎり 耐えていたのか、何とか25桂を取りきって持ち直した。さらに、端の折衝を相手が間違えて、 逆にこちらが有利?に。と思ったが、お互い玉が不安定で大熱戦に。もはや私のレベルを超えていて よく分からないが最後はぎりぎり残っていたようで、なんとか勝つことができた。
1勝1敗。

三回戦:vs まったりゆうちゃん ○

先手居飛車 vs 後手三間飛車の対抗形。
一回戦に負けたので、ここからは裏街道である。めぐり合わせか、裏街道では、いつも まったりゆうちゃんと当たる。
▽93桂が危険な手で、▲86歩、▲95歩から桂を取り切って 有利となった。以下は水平線気味に相手が暴走してきて、優勢になる。その後はゆっくりいけば 良かったのだが、角切りから、強引な寄せを見せる。この局あたりから、大槻将棋の性格が、 かつてと変化していることに気づき始める。最後は、着実に寄せた。
2勝1敗。

四回戦:vs 謎的電棋 ○

相矢倉。
謎的電棋とも、よくあたり、これで3年連続である。
二回戦後に矢倉の落とし穴表を少しいじったのが功を奏したのか、今度はうまく矢倉に組むことができた。 また、前日に矢倉で五筋重視の評価関数をいじったお陰で、うまく5筋からの攻めが決まり、相手が 若干受け間違ってくれた感じもあり、快勝することができた。
3勝1敗。

五回戦:vs うさぴょん ○

相居飛車 力戦形。
うさぴょんとも、よくあたり2年連続である。
毎回、苦戦するが最後は何故か 勝っているという内容が多い。本局、目標は矢倉だったのだが、中央を制圧されて訳が 分からなくなったらしく、40手目▽62玉は相当意味不明である。49手目▲53歩と打たれた あたりは、まったく生きた心地がしない展開である。しかし、この局面の後手玉の評価値は たったマイナス150点で、しかも探索結果は後手有利らしい。何かが間違っている。61手目▲64角と 角を切られて初めて、大変なことが起こっていることに気づいたらしく、評価値が大暴落。 (-100 => +2000 に) ところが、ここから凌ぎに凌いで、最後は逆転してしまった。この対局を通して、かなり終盤力が上がっていることを実感 した。
4勝1敗。

六回戦:vs 備後将棋 ○

先手振飛車 vs 後手居飛車の対抗形。
連勝で、そろそろ表街道に出た。備後将棋は、ここ数年決勝リーグを戦っている 強豪だが、実は初対戦。
だんだん、居飛車には懲りてきたので、心機一転、安定感のある振飛車 に作戦を変更する。▲75歩と突けたものの、▽64銀と牽制されて、石田流の好形には組めず。 39手目▲65歩 は怪しい仕掛けと思ったが、一応ある手のようだ。むしろ、これは取っては いけないようで、次の▽65同銀は微妙なところ。次の▲56歩 も微妙で、さっさと▲77桂と 跳ねたほうが好かったのかも。ただ、このあたり、既に私の能力を超えている。以下銀得した ものの飛車を成りこまれ、このまま、先手の飛車が活用できすに抑え込まれると惨敗の危機。 61手目▲74歩や63手目▲73歩成は一手パスに近い悪手で、このあたりでどうやら逆転ムード。 しかし、73手目に▲59飛と合わせた手がなかなかの手で、再び混戦に。金が69にいる形が、 妙に寄りにくくなった。以下は、飛車を切って無理気味に攻めてきたのを、丁寧に受けて、 何とか凌ぎきって勝利。強豪ソフトに競り合って勝てたのは非常に嬉しかった。ただこれで、 スーパー表街道に一躍名乗り出てしまったので、後は、3連敗だろうと思っていた。
5勝1敗。

七回戦:vs TACOS ○

先手振飛車 vs 後手居飛車の対抗形。
TACOSは初出場で当たって以来、何度も当たっているが、一度も勝ったことのない相手。 しかも最近のTACOSは、決勝の常連で、年々離されている印象がある強豪である。
振飛車で良い勝ち方をしたので、縁起を担いで、再び振飛車を採用する。 と、いきなり5筋の歩を切られ、48手目▽65歩から攻勢をかけられる。この歩を取って よいのか悪いのかは、かなり微妙で、強い人に聞いてみたいところである。 61手目▲87角打は、苦しそうだが、意外に粘りがある手だったようだ。しかし、以下はうまく と金を活用されて銀損となり、勝負あったかと思われた。しかし、23の地点を狙ったのが好着想で、不利ながら なんとか追随する。93手目に金を39ではなく、58に上がったのはどうだったか? しかし、95手目▲53歩成は、かなりの勝負手で、以下▲42と となってはかなり盛り返したようだ。 このあたり、次々と勝負手を繰り出していく様は、以前はなかったもので、頼もしく思えた。 以下ちょっともたついた感があったが、見事な逆転勝利。信じられないことに 決勝が見えてきたが、多分後は2連敗でソルコフ差の次点くらいだろうなと思っていた。それほど 大槻将棋は作者に全く信用されていない。
6勝1敗。

八回戦:vs 竜の卵 ○

先手居飛車 vs 後手振飛車。
竜の卵も毎年のように当たっているが、未だに勝ったことがない。
いきなり角交換されたにも関わらず、8手目は余裕で▽32飛とまわる。先手に▲65角 と打たれたらどうなるんだと思ったが、どうやら▽88角があるので大丈夫のようだ。 それは、お互いに読みきりで粛々と駒組みが続くあたり、作者は既に置き去りにされている。 竜の卵の序盤は、大槻将棋並にひどくて(失礼)、怪しい囲いに組んでいる。とはいっても、 竜の卵の中盤以降の安定感は並外れているので、形の悪さはほとんど勝負とは関係ない。 43手目▲16歩は見ているときは「何だこれは」と思ったが、今冷静に見ると合理的な仕掛けのようだ。 ただ、先に▲32角 と打つ方がよかったかもしれない。多分、その直前の▽44飛は 危険な手だ。本譜は一歩入ったお陰で、▽75歩以下の反撃の筋が生じた。ここからはノーガードの 攻め合い。60手目▽49角からは決断の攻め。以下切れるか切れないかのぎりぎりの攻防 が続いたが運よく切れなかったようだ。この将棋は、初の決勝進出を決めるに相応しい、 大槻将棋の名局の一つに数えられると思う。見ていてちょっと感動した。
7勝1敗。

九回戦:vs 柿木将棋 ○

相矢倉。
柿木将棋は、言わずと知れた柿木将棋である。何度か対戦しているが、やはり勝ったことがない。
ただ、この対戦は、7勝1敗どうしでお互いに既に決勝進出を決めた、いわゆる消化試合である。 明日も対戦があることが確定しており、やりにくい戦いではある。
40手目辺りまでは、普通の相矢倉。居飛車でもたまにはまともな形に組めるのである。 41手目▲39飛 43手目▲38飛とかの怪しい手が出たので、実は先手が大槻将棋だと思っていた。 市販ソフトでも、この辺りの序盤の手のチューニングは苦労しているのだろうか? 51手目▲39飛が少し甘い感じで、ここから相手の駒を追い返して、急によくなったようだ。 以下の勝ち方は手堅い感じで安心してみていられた。何と柿木将棋にまで勝ってしまい、9回戦で Bonanzaが負けたために1位通過が決定した。
8勝1敗。

一日目終了 ---決勝進出---

二次予選は、Bonanza戦以降は8連勝と怒涛の勢いで何と1位通過。望外の結果が得られました。ただ、もの凄く運 がよかった面もありました。たとえば良い手と悪い手が振動した結果、30[sec]の思考中29[sec]くらいで、 よい手に変わったというようなことが何度かあったように思います。また、逆転した将棋は、読みきった というよりは、運に恵まれた部分も多く、とても二次予選1位の実力ではないなと感じていました。ただ、 何はともあれ、遂に夢の決勝に進出。その程度で喜んではいけないのかもしれませんが、5年間の苦労が 報われた感じがしました。
決勝編に続く