第15回世界コンピュータ将棋選手権自戦記
今年も、コンピュータ将棋選手権に参加してきました。
大槻は、5/3, 5/5は見学、5/4の二次予選には参戦してきました。
結果は激指の全勝優勝。
その後の記念対局では、激指は角落ちの勝又五段(プロ棋士)にも勝ちました。
激指は最初おされ気味でしたが、反撃から詰みに至る寄せは芸術的でした。
コンピュータとは思えない、魂のこもった指し回しに、胸が熱くなりました。
アマ竜王戦は是非頑張って欲しいと思います。
今大会の大槻将棋の結果は、5勝4敗で、二次予選9位でした。
昨年(4勝5敗の14位)と比較すると、順位こそ5個上がりましたが、
二次予選が大混戦になったことも影響し、9位は実力以上かもしれません。
昨年版の大槻将棋と比べると、間違いなく強くなっているはずなのですが、
周りの底上げは、より大きい感じで、真の順位は昨年とほとんど変わっていないのかもしれません。
今年の大槻将棋の特長は、近藤五段の勝率8割にあやかってという訳でもないのですが
ご機嫌中飛車戦法をベースにして戦った点だと思います。
結果的には、教科書どおりに攻めが決まったKCC戦を除くと、
どちらかというと膠着状態になったり、玉の薄さを付かれたりと、
あまりうまくいかない感じで、コンピュータ向きではないのかなという感じがしました。
以下、自戦記です。
なお以下の棋譜表示には、勝田将棋盤 V2.3 を使用させていただいています。
一回戦:vs 謎的電棋戦 ○
相中飛車。
去年に続く対戦。謎的電棋さんは、webページでも難解な終盤の解析結果を公開されているが、
終盤には自信があるとのこと。何となく嫌な感じである。
まずは、ご機嫌中飛車初登場。こちらが中飛車に振ると、55の地点を守るために、
相手も中飛車に振る傾向があるようだ。謎的電棋さんは、見たことのない形に手が乱れ始めたらしい。
まずは作戦成功。先手の▲77桂、▲66銀型は角がいなければ、好形になるのだが、
この場合は角がはたらきづらくなるのでどうだったか。39手目▲94歩は暴走で、当然疑問手。
普段は不利にならないとあまり出ないのだが、なぜか選手権では序盤の端歩の暴走が目立つ。
互いに手を殺しあうことが多いからだろうか。
さらに49手▲15歩と、今度は玉側の端歩まで付き捨ててしまう。56手目▽12香打とされ
ていたら、かなりやばいことになっていたと思うが、▽75歩と別の争点を作ってくれたため、
形勢が好転した。凝り形になっている部分を攻めてくれたため、63手目▲77同飛 あたりでは、
かなり挽回している。次の64手目▽88角 が悪手で、ここは▽76歩とかで、
飛車の縦利きを抑えないいけない。以下、飛車まで捌けては、先手優勢だと思う。以下は、正しいの
か微妙だが、結果的にはまあまあの寄せで、快勝した。
1勝0敗。
二回戦:vs KCC将棋戦 ○
居飛車 対 ご機嫌中飛車。
KCC将棋は、昨年決勝4位(今年は、決勝2位)の強豪。しかし、昨年の二次予選では、
大槻将棋が快勝した相性のよい!?相手である。だから、今年も勝てるだろう、
などとは全く思っていなくて、今年こそは完膚なきまでに打ちのめされるだろうと
思っていたのだが・・・。
後手ご機嫌中飛車に、角交換から飛車先交換した後の27手目▲75銀は、
ねらいがよく分からないが、危険な手。次の28手目▽56歩で将棋は終わってしまった。
ひょっとしたら29手目▲66銀以外の受けがあるかもしれないが、少なくとも▲66銀
▽39角の時点では、技が決まっている。端に銀を打つ手を軽視していたのか、
昨年に続き信じられないような展開である。ただ実力差を考慮するとKCC四段と大槻初段の
勝負はまだまだこれからで、ここからKCCのはげしい追い上げがはじまる。
最初のミスは40手目で、▽19銀成から▽26香では▽19銀不成から▽28銀不成を目指すべきだろう。
ただ、局面は相当大差だったようで、大槻将棋の亀の寄せの合間をぬって猛攻をかけてくるも
いまいち迫力がない。と思っていたら、飛車を取った後の71手目▲54角がなかなかの手で、
少し寄せの形ができてしまった。80手目▽44角で完全に止まったかと思ったら、▲61飛成
から▲55香と怒涛の攻め。さすがに決勝ソフトの寄せは迫力が違い、だんだん生きた心地
がしなくなってきた。が、ここで▽51玉が冷静な手で、以下は何とか切らすことができ、
勝つことができた。
2勝0敗。毎年、午前中は調子がいい。。
三回戦:vs きのあ将棋戦 ●
中飛車 対 三間飛車の相振。
きのあ将棋さんは、二次予選シードの常連といった感じだが、過去2回は当たったことがない。
やはりご機嫌中飛車。中飛車は、対居飛車でも対振飛車でも攻め方があまり変わらないのが、
コンピュータ将棋の作者としては嬉しいところ。▲55歩の位をとり、65で歩交換できた形は、
願ってもない展開で、ここでは相当よいはず。惜しむらくは、37手目に▲64歩と垂らして
おく手を指して欲しかったが、見送ってしまった。逆に42手目▽64歩
から銀を引かされてしまっては、もったいない感じである。(今気づいたが、これは、▲55歩
▲56銀を好形としていた副作用に違いない・・・)ただ、その後は、後手が水平線気味に端を
突き捨ててくれたりして、かなり形勢がよくなったはずである。以下も有利な展開が続いた
のだが、61手目▲14歩は踏み込みすぎで、
結局後で端から逆襲されてしまったということを見ても悪手だろう。ここでは、
普通に▲64歩か▲64銀とやっておけば、優位を拡大できたと思う。本譜は72手目▽25桂あたりから、
妙におかしくなってきた。美濃囲いは端を攻められると弱く、有利なときに端をいじった反
動がきた。さらに▽67香から、飛車角両方とられてしまったのが無茶苦茶で、85手目の部分
的な必死みたいな局面を大いに勘違いしてしまった後に、どこかで時既に遅しになってしまっ
たようである。バグが絡んでいる気もするが、急転直下に転落してしまった。ご機嫌中飛車
の快勝譜になるはずだったのだが残念。
2勝1敗。
四回戦:vs GPS将棋戦 ●
相中飛車。
今大会大活躍のGPS将棋。
後手ご機嫌中飛車に対し、GPSは相中飛車に。17手目▲85桂は、さすがにないだろうという手。
強い人or コンピュータならば、じわじわとがめることができるのだろうが、大槻将棋は、
結局、この桂馬を中途半端に相手して、存分に働かれてしまった。
こういうなかなか死なない桂の生死は、二次予選レベルの
コンピュータ同士の戦いの場合、ポイントになることが多い気がする。本譜も▽84歩と桂を殺す
手を含みに、38手目▽55銀あたりまでは、一応後手有利だと思う。しかし、41手目▲46角がうまい
手で、こびんを開いてしまっている後手玉は非常に受けにくい。この角筋による玉のこびん攻めは、
大槻将棋の弱点で、だんだん勝てる気がしなくなってくる。さらに48手目▽51飛
が1手PASSに近い大悪手で、これで完全に決まってしまった。
▲95歩からの端攻めの厳しさに気づけていないの
と、落ち着けば▽84歩から桂を殺せるという判断があると思われ、甘いと言わざるを得ない。
やっぱりもうちょっと深く読めるようにならないと・・・。以下は惨敗。
2勝2敗。
五回戦:vs Shotest v8.0戦 ●
居飛車 対 中飛車。
Shotest は3年前までは決勝の常連で、今回は久しぶりの出場、注目の相手である。
オーソドックスに進み、36手目では、後手が飛車先交換に成功。文句のない展開ではあるが、
後手からは打開が難しいところ。Shotestは腰が重いとは聞いていたが、以下、延々と70手程
駒の繰り替えが続く。このまま、時間戦になるかと思ったが、103手目にやっと▲35歩と
仕掛けてくれた。腰の重い相手に、中飛車は損な作戦かもしれない。この後111手目▲85桂
の局面が、後手にとってはポイントになるところで、▽66歩とか▽56歩とかやっておけば、
少し有利くらいにはなっていたのではないか、というところ。しかし、112手目▽33桂と
やってしまったのが、PASS以下の手で、以下は本譜のとおり、跳ねた桂が邪魔をして金が死んで
しまった。これしきが読みきれないのは情けないが、おそらく深さが足りなかったと
思われる。以下は、後手陣が金に弱い形をしていたこともあり、悪手を連発してしまった。
これくらいの差ならば、もう少し粘りのある手を指して欲しいのだが・・・。
Shotestの丁寧な応接もあり、最後はとんでもない大差で惨敗。
2勝3敗。
六回戦:vs うさぴょん戦 ○
居飛車 対 三間飛車。
うさぴょんさんとは割とよく当たるのだが、中盤こちらが失敗してひどくなることが
多い印象がある。
中飛車では勝てる気がしなくなってきたので、
ここから3局は、堅実な三間飛車に変更して気分を変えることにした。
後手は、オーソドックスな構えだが、先手は角の位置が変則。38手目▽45歩で
一本取ったと思ったら、いきなり40手目に▽77角成と切り込んでいってしまった。
以下の展開のとおり、▽28銀から香を取りにいって2枚換えで有利と思ったようだが、
後手の19の成銀がすぐには働かないため、ここからは先手が有利である。
この端に銀を打って桂香をとりに行く形が今回妙にたくさん現れたが、是非はなかなか難しい。
減点していたら、KCC戦は勝てなかったかもしれないし・・・。
この後、何とか成銀を働かす展開にはなったものの、先手は2枚角をうまく使って馬を
作り、しかも後手玉はこびんが開いてしまったため、さらに先手の優位が拡大して
しまった。苦し紛れにと金をつくり、総交換した85手目▲37同金あたりは、駒得の分だけ
先手優勢だろう。86手目▽55歩は一種の勝負手だが、87手目▲64桂打が激痛で、先手
勝勢。91手目▲61成桂としておけば、先手ほぼ勝っていただろうが、
▲53成桂としてしまったため、いきなり逆転してしまった。以下は、堅実に寄せて
逆転勝ち。
3勝3敗。
七回戦:vs まったりゆうちゃん戦 ○
相振。三間飛車 対 中飛車。
まったりゆうちゃんとも最近よく当たる。しかもいつも相振りになる気がする。
堅実に美濃囲いに組み先手だけ飛車先交換に成功。まずは上々な滑り出し・・・と思ったら、
飛車の無駄な上下動や、取った駒を43手目▲75歩と打ってしまうなど、駄目さ加減が目立つ。
(注: このあたりも形評価の副作用に違いない)しかし、その後の後手の▽13桂と▽61桂が、
自分から弱点を作ってしまう悪手で、以下は相手の水平線にも助けられて、じわじわと勝勢
を築いた。
これで4勝3敗。後2連勝したらひょっとしたら決勝に行けるのでは、と密かに思い始める。
八回戦:vs 矢埜将棋8戦 ○
三間飛車 対 居飛車。
おなじみの対抗形。先手は石田流に組めて十分。34手目からは、千日手の危険があったが、
無事大槻将棋側が回避して、ほっと一息。こんな序盤の、しかも他にいくらでも手が
あるところで、千日手になっては泣くに泣けない。50手目後手から▽55歩と仕掛けてくれて
戦いが始まった。53手目▲65歩の突き捨ては怪しい手ではあるが、結果的には
ここからうまく攻めて一気に優勢を築くことができた。以下も少し怪しい寄せではあるが
快勝した。
3連勝で5勝3敗。
この時点で8位で最終戦は勝てば他力での決勝進出(5位以内)の目を残して迎えることが
できた。粘ってみるもんである。
九回戦:vs 竜の卵戦 ●
居飛車 対 竜の卵。
最後は、安定感に定評がある竜の卵戦。お互い5勝3敗で、竜の卵は勝ては自力で決勝進出。
大槻将棋も勝てば十分可能性があるので、非常に大きな一番である。
(注: 大槻将棋の上がり目は、1, 備後-Shotest戦でShotest勝ちならほとんど確実。
2, 備後勝ちならば、柿木-KFEnd戦の結果と対戦相手の結果次第という状況だったようだ)
この大勝負に、何となくKCCに勝った中飛車で勝負したくなったので、中飛車で臨んだ。
コンピュータ将棋選手権における戦形の選択は難しい問題で、いつも悩む。結局ほとんど
関係ないという噂もないではないが・・・。
序盤後手は何か、変な読みをしてしまったせいで、
飛車先の受けがおかしくなり、危機発生。21手目あたりでいきなり▲24歩
と仕掛けてくる手もあったと思うが、やってこないあたりに逆に安定感を感じる。
以下は3手損はしたものの、なんとか普通の
形に戻った。以下先手が4手角みたいな変則な形に構えた。
・・・とここで、42手目から角を上下する千
日手模様。今回の千日手は、先手に強制される手順なので、回避できるか危ぶまれた。
しかも竜の卵は回避ルーチンがないらしく、お互いに冷や汗を掻いた。(注: 大槻将棋は
3回目局面で、回避する手を読み評価値が-100点以上ならば回避、またここで千日手ならば
大槻将棋、竜の卵共に決勝にいけない可能性が高い)後手▽42角▽53角共に回避すると
相手からの攻めがあるので非常に危なかったが何とか回避できた。
・・・と、ほっとする間もなく、二回目の千日手模様がやってきて、今度は1個目の3回目局面でも千日手
を選択してしまい、本当にぎりぎりの2個目の千日手局面で、何とか▽35歩と回避した。
以下銀交換から、83手目▲26銀の瞬間に▽27銀と打ち返したのが好手で、後手有利になった。
ただ、92手目▽33香打は少しもったいなかった気がする。香を手持ちにしていれば、
98手目に▽56香と打つような筋があるのだから。以下、端を付き捨ててくれたりと、
かなり勝てそうな展開となったのだが、118手目の▽54桂などは悪手。
とこのあたりで、どうやら備後将棋が勝利し、4チームの決勝進出が決定、
残りは柿木-KFEnd戦の勝者または竜の卵の報が入る。
決勝進出の目はなくなり、万事休す。
以下は、相当有利だったはずだが、やる気がなくなったのか(?)、
ちょっと信じられないような(といってもよくあることだが)怪しい手を
これでもかと連発してしまううちに、的確に寄せられて、つかまってしまった。
最後もぎりぎりで競りまけたような形で敗北。
5勝4敗。「たられば」は無意味だが、勝っていてもソルコフ0.5差の次点6位だったようだ。
おわりに ---今大会をふりかえって---
今大会では、結果だけ見ると5勝4敗の9位となかなかの成績だが、
今回の二次予選はものすごい団子状態ということで、対戦相手の運不運があり、
真の順位はよく分からない。
できることなら、総当り*2くらいやって、より精度の高い順位を知りたかったような気もするが、
知らない方が幸せなような気もする。
最終戦は、色々とドラマがあり楽しかった。やはり他力でも決勝進出の目を残して
最終戦を迎えられると気合が入るし、来年頑張ろうという気にもなる。
今大会の最大の反省点は、勝負どころでかなり怪しい手を連発してしまったところだろう。
(お陰で、今回の解説は私の棋力でも、それなりに自信がある)
何かバグが潜んでいるのかも知れず、要検討である。
なぜか知らないが、選手権では、市販ソフトとの対戦ではでないような酷い手が
沢山出てしまう気がする。普通でない局面が多いためであろうか?
今回よかった点は、まあまあ序盤がある程度安定したことだろう。
囲いが完成するまで攻めないバランス感覚とか、こう着状態になった後の乱れが少なかった点
は評価できる。細かいことだが、千日手回避ルーチンも一応、作者の意図どおり機能してくれ
てよかった。3回も同一局面3回目局面を迎えてくれれば、インプリした甲斐があるというもの
である。
一番一番を振り返ってみると、
きのあ将棋戦や竜の卵戦は、有利な局面で酷い手を連発してしまってもったいない印象があるが、
KCC戦は、逆に、実力差の割にはよく終盤逃げ切れたし、
また謎的電機戦やうさぴょん戦はよく逆転できたものだと思う。
結局、平均すると実力どおりで、決勝に行けないのは、実力が足りないからだという
単純な結論になる。
全体としては、今年も、楽しませていただきました。来年の鍵は、評価系を早く確立して、
計画的に悪手を潰し、探索を深くしていく
ことだと思われます。来年も決勝目指して頑張りたいと思います。
ではでは。
2005.5.11 大槻知史
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