第14回世界コンピュータ将棋選手権自戦記

今年も、コンピュータ将棋最大のイベントであるコンピュータ将棋選手権が終わりました。 大槻は、5/2, 5/4は見学、5/3は参戦してきました。 例年どおり白熱した戦いが繰り広げられ、結果はYSSの7年ぶりの優勝。 優勝インタビューでの山下さんのうれしそうな表情が印象的でした。

その後の記念対局で、YSSは飛車落ちの勝又五段(プロ棋士)にも勝ちました。
Xデーがまた少し近づいたなという感じがします。

今大会の大槻将棋の結果は、4勝5敗で、14位でした。
結果こそ、昨年(4勝5敗の15位)とほとんど変わっていませんが、今年は、

・狙った戦形に誘導できた。
・市販ソフトであるKCC将棋(市販ソフト名 銀星将棋)に勝った。
・勝負どころを作れずに一方的にさばかれて圧敗した将棋が一個もなかった。
・負け将棋も随分粘れるようになり、関田将棋戦では逆転までできた。

といった点で昨年よりは随分内容がよくなったように思います。
上記に関係しますが、今年は序盤の評価関数を強化したり、 また序盤の、相振りとか石田流とかの好形の知識をインプリしていたのですが、 結果として割合美しい序盤を指せるようになったので、その点も満足。

また、戦略オプションとして、 三間飛車と角交換二手損戦法(角交換振飛車)の2通りの作戦を用意していたので、 相手によって、どちらを採用するか考えたりするところがメタゲームっぽくて面白かったです。

以下、自戦記です。
なお以下の棋譜表示には 勝田将棋盤 V2.3 を使用させていただいています。

一回戦:vs 関田将棋戦 ○

居飛車 対 三間飛車。
石田流に組むことができ、作者としては一応満足な展開。 58手目▽46歩などで振飛車から押さえ込む手がありそうな気がしたが、 59手目の▲46歩以下逆に押さえ込まれる展開になってしまった。 80手目▽36歩から強引にこじ開けた手は微妙。以下、切れ筋に。
しかし、105手目▲98玉が悪手で、 以下ぎりぎり(厳密にはあきらかに切れ筋)の攻めをつなぐ展開になる。 最後は、怪しい端攻めから大逆転した。1勝0敗。

二回戦:vs 謎的電棋戦 ○

三間飛車 対 居飛車。
▲69金 型で居飛車から飛車交換にきたのがまずく、先手が優勢になった。 以下の先手の攻めはあまりうまくなかったが、徐々に優位を拡大し、勝利。
2勝0敗。ここから急にあたりがきつくなる。

三回戦:vs KCC将棋戦 ○

角換わり相振り飛車?
KCCは昨年(今年も)4位の強豪プログラム。
こちらからの作戦で角交換にいったが、 KCCが四間に振り、こちらが向飛車にする不思議な展開に。
34手目▽53金が多分甘い手で、 それをとがめた、35手目▲84歩以下の仕掛けが今大会一番の自慢の一手。
以下、成桂を作れる展開になり、優勢に。 47手目▲83角成は少し無理筋っぽく、▲34角とかじっくりいって欲しかったが、 結果的にこの手以降勝勢になったようだ。 以下は快勝。
これで、3勝0敗。 ちなみに、この後KCC将棋は8勝1敗で二次予選通過。決勝4位。 決勝で全勝優勝して欲しかったな・・・。

四回戦:vs 柿木将棋戦 ●

居飛車対振飛車。
柿木将棋が得意という噂の居飛車穴熊にされるのだけは嫌だったが、 何とかその展開にはならず助かった。
序中盤は互角に戦ったように思ったが、 89手目▲32と と取られてからははっきり悪そうだ。
ただチャンスはあったはずで、たとえば80手目▽36歩 の変わりに ▽25桂 ではどうだったか? コンピュータ得意のぐちゃぐちゃな展開なので私の実力ではコメントしきれません。
3勝1敗。連敗街道がはじまる

五回戦:vs 永世名人戦 ●

角交換振飛車 対 居飛車。
大槻 3勝1敗。永世名人 4勝0敗。だったので、注目の一戦で、 勝又五段の大盤解説付き。
二手損戦法が見事に成功して、55手目▲81飛成までは、先手優勢、 プロ並と勝又先生には評価された。
しかし、ここから転落が始まる。 57手目▲71竜 と飛車交換に応じたのが、 せっかく作った竜と、全く働きそうにない飛車を交換してしまう大悪手。 以下も悪手を重ねて、逆転負け。強豪相手だっただけに残念。
なお調べたところでは、57手目▲71竜 は、飛車の評価関数の副作用だったようで、 ソースの30行程をコメントアウトしたところ、 ▲82竜 ▽52金 ▲65角 ▽43角 ▲56歩 と進みまあまあの 展開なのではないかと思う。評価関数は難しい・・・。 3勝2敗

六回戦:vs TACOS戦 ●

角交換振飛車 対 居飛車。
前局と同じく、角交換二手損戦法から、八筋をうまく攻める展開になったが、 41手目▲83歩成 と切り合いにいった手がまずく、ここからは悪い。
▲83歩成 では、飛車を引いておけば有利そうだが、どこに引いても、 角でいじめられる手があって読みきれなかったようだ。
47手目▲31角 も悪手。
3勝3敗。TACOSは最終的に予選突破。

七回戦:vs 奈良将棋戦 ●

角換わり振り飛車 対 居飛車。
やはり同じ作戦だが、14手目 ▽75歩 でとがめられてしまった。 厳密にはまだ不利ではないと思うが、角を打たれたことで、 美濃囲いに組めなくなり、実戦的には不利になった。
ただ、この後も悪いながら難しい戦いで、一瞬チャンスがきたかとも思ったが、 うまく受けきられてしまった。
あまり勝負とは関係がないが、作者としては 途中で美濃囲いを何とか復活させたのはちょっとうれしかった。   これで、3勝4敗。 

八回戦:vs 竜の卵戦 ●

居飛車 対 角換わり振り飛車。
おなじみの展開だが、36手目▽45飛 がまずかったか。 38手目 ▽24歩 も意味不明。 ▽28歩の方がよかった。 以下、飛車を成れたものの駒損が大きかった。
どうも、今大会は、居飛車(相手)陣に攻め込んだ竜 or  飛車の価値を 高く評価しすぎたような気がする。
弱い相手だと、そのまま押し切れるのだが、強い相手だと、駒得した駒を守りに 使ってくるので、竜ができたくらいではつりあわない。
最後はあと一枚金気があれば、という一手差の形まで粘ったが コンピュータ将棋では意味がないだろう。
3勝5敗。5連敗でシード権も危うくなる。

九回戦:vs K-Shogi戦 ○

三間飛車 対 居飛車。
最後は、無難に三間飛車にした。
七回戦、八回戦もひょっとしたら、こちらの方がよかったのかなと 今となれば思うが・・・。
KShogiは、いきなりびゅんびゅんと攻めてくるので、怖かったが、 前半は定石だったようで、無難な序盤になり助かった。
中盤以降は徐々に優位が拡大したようだ。
  4勝5敗。快勝で何とかシード権は保持した。

おわりに ---今大会をふりかえって---

結果自体は4勝5敗の14位と不本意な成績だったが、 棋譜を見直してみても、去年よりは大分強くなったなという感じはあるので、不運な面もあったと思う。

今回は、序盤の3連勝のために、相手がきつすぎた。
(実際、対戦相手計9チームの勝ち星の合計(ソルコフ)は49.5で、全24チーム中2番目に高かった) まあ、そういった相手に勝っていかないと決勝には出られないということはよく分かった。

今大会の大槻将棋は、去年の反省もあり、飛車の評価を工夫したつもりである。
具体的には、さばけていない飛車の減点とか、相手玉の近くを狙う飛車の加点とかである。

さばきに関しては、取られそうな桂香を飛車で守りにいったために、結果的に 飛車が51あたりに隠居することになり、最後にと金でとられてしまうようなことが多々あったために、 振飛車の場合に、やむなく導入した評価関数である。

また、飛車と相手玉の距離感の評価は、成りこまれた飛車と当たりになった金 の間に歩とか香とかを打って粘る手が指しやすくなるので、実装した。

もちろんこのようなアドホック色の強い評価をしないで、 読みで全てできればそれに越したことはないのだが、最終的にやむをえず採用することにした。 この結果、全局とりあえず竜を作れた点が意外というか、面白かった。
ただ、逆に結果的には副作用がかなり出てしまったようだ。 結局強いところには小手先の技は通用しないなという感じがした。

個人的には、駒を損しても、攻め込んで寄せてしまうような将棋を目指したいのだが、 上位のソフトの指し手を見ていても、駒得重視の指し手が多く、 やはり「駒得は裏切らない」のかなと思ってしまう。 ただ、今回は負け将棋も時間を一杯使って粘れたし、 上位ソフトも結構いじめられたので一定の満足はしています。

全体としては、関係者の皆様の努力のお陰で今年も楽しませていただきました。
来年もできる限り頑張りたいと思っています。

2004.5.9 大槻知史